東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-057
会議情報

褥瘡対策のためにポジショニング用クッションを作製した一症例
*乾 瑠美子岩田 康弘中西 俊一 中村 明日香 山川 ありさ 三木 良知伊藤 栄祐飯田 有輝
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【はじめに】
 身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の組織の血流を低下させる。この状態が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。関節可動域制限やるい痩のための骨突出などのほか、皮膚の湿潤や栄養不良、ずれや摩擦による組織の耐久性低下などは褥瘡の発生リスクをより高める因子となっている。
 今回、入院前から四肢・体幹の関節可動域制限があり、さらに仙骨部に褥瘡を生じていた外傷性くも膜下出血の症例を経験した。本症例は褥瘡の悪化予防のために仙骨部の除圧を目的としたポジショニングを行っていたが、関節可動域制限のため床面と身体との接触支持面の安定が図れず、四肢・体幹の過剰な筋緊張亢進を誘発し、適切なポジショニングが行えずにいた。そこで、「褥瘡の悪化予防」、「新たな褥瘡の発生の予防」、「更なる関節可動域制限の予防」を目的に、院内の褥瘡対策チームや病棟との協力のもと理学療法士が主導し、ポジショニング用クッション(以下、クッション)の作製を行った。クッションの導入により、再現性のある適切なポジショニングが得られ、本症例にとっての安定した臥位姿勢の保持が図れるようになった。このことにより、四肢・体幹の過剰な筋緊張亢進が軽減し、さらに関節可動域の改善も得られたので若干の考察を踏まえ報告する。なお、報告に際し本人および患者家族の了承を得た。
【症例紹介】
 症例は、転倒による外傷性くも膜下出血にて当院に入院された70歳代の男性。既往歴にパーキンソン病・糖尿病・認知症があり、病前ADLは要介護4で日常生活動作全般的に介助が必要な状況であった。入院前より四肢・体幹の関節可動域制限と仙骨部の褥瘡が認められていた。入院翌日より理学療法が開始となり、褥瘡対策チームや病棟と共にポジショニングの統一を図ったが、姿勢の再現性に苦慮し安定したポジショニングがとれなかった。入院後30日目の褥瘡対策チームの回診にて、再現性のある安定したポジショニングの導入が提案事項としてあげられた。チーム内での検討の結果、骨盤から下肢を安定させるためのクッションを作製することとなった。入院50日目に仮クッションを導入し微調整を行った。入院62日目より本格的にクッションの導入を開始した。
【ポジショニング用クッションの概要】
 床面との体圧の分散を図る目的でポリウレタン製クッションを使用し、下肢の重量を支えるために背臥位時にできるベッドと下肢との隙間をクッションで埋め、さらに下肢を安定した位置に保持できるよう溝を作った。
【導入前後の評価方法】
 装着前後の姿勢変化の評価と、褥瘡状態を判定するためにDESIGN-Rを使用し比較検討した。また、装着前後の関節可動域と筋緊張の評価も検討した。
【結果】
 クッション装着により、股関節屈曲・内転位、膝関節屈曲位の姿勢が改善された。また、上肢においても筋緊張亢進により肩関節が内転位になってしまい、対側の上肢と交差する姿勢をとっていたが、クッション装着ともに改善がみられた。DESIGN-Rは入院時では29点であったが、退院時には21点に改善した。さらに、関節可動域と筋緊張にも変化がみられた。関節可動域では股関節屈曲、伸展、外転、膝関節伸展で改善がみられ、筋緊張においては、四肢左右ともにModified Ashworth Scaleにて3から2へと改善がみられた。
【考察】
 関節可動域制限や脊柱の変形などの評価とともに、臥位の姿勢を観察・分析することは理学療法士の専門分野である。その症例特有の圧がかかりやすい部位などを詳細に把握することで、褥瘡の好発部位に持続的な圧力が加わらないよう、体位変換も含めた姿勢指導を行うことが理学療法士には可能である。
 また、本症例のように関節可動域制限や褥瘡などがあると、接触支持面の低下が生じ安定した姿勢保持が困難となる。そのため十分なリラクゼーションが図られず、四肢・体幹の筋緊張亢進が助長されることをしばしば経験をする。臨床でみる関節可動域制限の多くは、組織の器質的変化に筋の収縮の影響が加味されていることが多いと言われており、不動により持続的な筋収縮が惹起されることも言われている。今回クッションの使用により、床面と身体の接触支持面の安定が図れたことが、四肢・体幹の過剰な筋緊張亢進を抑制し、持続的な筋の収縮の影響がなくなったことで、四肢・体幹の関節可動域制限を改善することにも繋がったと考えられる。
【まとめ】
 本症例のような関節可動域制限や褥瘡が生じている症例では、四肢・体幹の関節可動域などの機能改善へのアプローチや、離床時間の拡大などのアプローチだけではなく、体位変換を含めた臥位姿勢指導や管理も重要な理学療法アプローチであると考える。

著者関連情報
© 2011 東海北陸理学療法学術大会
前の記事 次の記事
feedback
Top