抄録
【目的】 尿失禁は認知障害,骨折とともに老人の3大症候群の1つとされており,高齢者における尿失禁の頻度は極めて高い.また,産前・産後の女性においても尿失禁に悩んでいる症例が多い.骨盤底筋群の障害を抱える症例が非常に多く認められているにもかかわらず,我が国における泌尿器・産婦人科領域に対する理学療法の介入は非常に少ない.骨盤底筋体操は出産・骨盤内手術後,加齢・便秘・肥満,前立腺手術後,腸・肛門の手術後の骨盤底筋群の機能障害で生じる尿失禁に効果があるとされている.当院では2010年度初めて理学療法士(以下,PT)が看護師・保健師(以下,Ns)を対象とした研修会で「骨盤底筋体操」に関しての講師を担当する機会を得た.研修会参加者に対してアンケート調査を実施し,当院での骨盤底筋体操の現状,講義の有用性を検討した.
【方法】<講義内容>当院でNsを対象とし「骨盤底筋体操」に関しての講義を実施した.内容は,尿失禁について,骨盤底筋の解剖と作用,骨盤底筋体操の効果,排尿チェック表について,リーフレットについて,自己評価表についての講義を行った.そして骨盤底筋体操の動画を観た後,デモンストレーションを実施した.<対象>講義に参加したNs24名中,アンケートの回収が可能であった21名を対象とした.性別は全員が女性であった.勤務病棟の内訳は,泌尿器科病棟14名,産婦人科病棟4名,内科病棟2名,無回答1名であった.<調査方法>独自に作成した無記名式アンケート用紙を使用した.質問項目は1:講義前の骨盤底筋体操への関心,2:実際の患者への説明・指導経験の有無,3:講義による収穫,4:講義後の骨盤底筋体操に対する関心の変化,5:今後患者への骨盤底筋体操の指導・説明が可能であるか,である.選択肢は「とても・少し・あまり・まったく・わからない」の5項目で,該当するものにチェックしてもらった.
【結果】1:「講義前から骨盤底筋体操に関心がありましたか?」に対し,「とても」3名(14%),「少し」15名(72%),「あまり」3名(14%)であった.2:「患者さんに実際に骨盤底筋体操の説明・指導をしたことがありますか?」に対し,「はい」17名(81%),「いいえ」4名(19%)であった.3:「講義による収穫はありましたか?」に対し,「とても」15名(71%),「少し」6名(29%)であった.4:「講義後,骨盤底筋体操への関心が高まりましたか?」に対し,「とても」11名(52%),「少し」10名(48%)であった.5:「講義を聞いて,実際に患者さんに説明・指導ができるようになったと思いますか?」に対し,「とても」6名(28%),「少し」11名(52%),「あまり」2名(10%),「わからない」1名(5%),「無回答」1名(5%)であった.
【考察】今回のアンケート結果より,Nsの骨盤底筋体操に対する関心が日頃からあったことが伺え,大半のNsが実際に患者に説明・指導を実施していることがわかった.しかし,骨盤底筋や尿失禁に対する知識が不十分でパンフレットの提供のみを行っているNsもおり,Nsにより患者指導の方法や認識の違いは様々であった.今回講義に参加したNs全員が「とても」もしくは「少し」,「講義による収穫があった」と回答している.また,講義前の骨盤底筋体操に対する関心があったNsは「とても」3名(14%),「少し」15名(72%),「あまり」3名(14%)であったのに対し,講義後Ns全員が「とても」もしくは「少し」,「骨盤底筋体操への関心が高まった」と回答している.このことから今回の講義はNsにとって患者指導上,必要な知識の習得の機会となり,講義により骨盤底筋体操の重要性が認識できた結果だと考えられた.よって今回の講義は意義のあるものであったと思われた.腹圧性尿失禁に対する理学療法は,欧米においては積極的に行われているが,我が国においては未だ保険診療の適応となっておらず普及が進んでいない.現在,当院でもPTが骨盤底筋体操の説明・指導を実施する機会はほとんどなく,Nsサイドに委ねているのが現状である.そこで我々PTは今後も講義などを行いNsの骨盤底筋体操の知識や技術の向上のために的確な情報を提供し支援していく必要があると考えられる.また,今回作成したリーフレットを改良し使用していくことが望ましいと考える.
【まとめ】Nsを対象とした「骨盤底筋体操」に関しての講義の際,アンケート調査を行い当院での骨盤底筋体操の現状,講義の有用性を検討した.講義に参加したNsの大半が実際に患者に説明・指導を実施していることがわかった.今回の講義はNsにとって患者指導上,必要な知識の習得の機会となり,骨盤底筋体操の重要性が認識できたと考えられた.今後もPTが講義などを行いNsの骨盤底筋体操の知識や技術の向上のために的確な情報を提供し支援していく必要があると考えられる.