東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-15
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病期から見た理学療法士間の情報提供の実情と希望内容について
―愛知県内での調査結果―
*川瀬 修平嶋津 誠一郎内山 靖
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抄録

【目的】
 チーム医療が重視される中、多職種横断型では日常のカンファレンス、リハビリテーション総合実施計画書、地域連携パスの導入によって情報の標準化や様々な意見交換がなされている。一方、対象者を中心とした病期ごとにみた同一職種の縦断型のチーム医療についての情報は十分に共有されているとは言い難い。
 これまで、理学療法にかかわる情報提供書の研究がいくつかみられ、介護保険サービスである通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションの導入、在宅理学療法の推進によって、連続的で円滑な理学療法を実施するためには理学療法士同士の情報交換が必須であることが示されている。また、急性期の理学療法士は多くの情報を提供することはあっても、対象者の帰結を維持期や在宅の理学療法士からフィードバックを受ける機会は少ないものと予想される。
 そこで、本研究では、病期からみた理学療法士の情報提供の実情と情報を発信する側と受け取る側の立場から必要と思われる内容を整理することで、連続的で効果的な理学療法を実施するための基礎資料を得ることを目的とする。
【方法】
 対象は愛知県内の理学療法士とした。平成21年度社団法人理学療法士協会員名簿を用い、あらかじめホームページや聞き取り調査等で急性期リハビリテーション(以下リハ)、回復期リハ、維持期リハ(外来リハ、老人保健施設、通所リハ、訪問リハを含む)の3つにグループ分けし、所属会員から各グループ100名ずつ合計300名を無作為に抽出した。
 調査内容は、情報を送る立場と受ける立場のそれぞれに立った場合を想定していただき、情報提供書に記載している内容や作成負担度、情報を得たい内容等について、5段階(1:強く思う2:やや思う3:どちらともいえない4:あまり思わない5:全く思わない)の選択と自由記載で回答を得た。
【説明と同意】
 調査票は原則無記名とし、調査票に本研究の趣旨と内容、使用目的、連絡先等を明記したうえで郵送し、研究への同意と協力が得られる場合に調査票を返送いただくこととした。なお本研究は、病院管理者から本研究の倫理と実施についての承認を得た。
【結果】
 有効対象者数は292名、有効回答数及び有効回答率は112名(38.4%)であった。内訳は、急性期36名(32.0%)、回復期25名(22.0%)、療養型11名(10.0%)、外来リハ12名(11.0%)、老人保健施設9名(8.0%)、通所リハ7名(6.0%)、訪問リハ9名(8.0%)であった。
情報提供書に記載している内容は、病態(60.3%)、身体機能(86.2%)、ADL能力(86.2%)、理学療法プログラム(66.0%)、理学療法経過(72.0%)が中心であった。受け取り側として情報提供書に記載して欲しい内容は、病態(80.3%)、身体機能(74.5%)、ADL能力(82.5%)等に加えて、対象者の性格について記載して欲しいという意見がみられた。老人保健施設では、医学的データが乏しいために医療機関からの画像や生理検査等の情報を必要としているという意見がみられた。なお、情報提供書の作成に関しては、「患者数が多い」、「情報を取り出す手間がある」、「他の理学療法士がどのような情報を求めているかが分からない」といった理由から、全体の80.0%の回答者が負担と答えた。
 リスク管理では、送る側で必ず記載していると答えた者は46.0%であったのに対し、受ける側で強く希望すると答えた者は76.0%と高値を示した。一方、ゴール設定を記載しているかという項目では、対象者を送る側で必ず記載していると答えた者は14.0%で、受ける側も情報を強く希望すると答えた者は12.0%にとどまった。なお、「患者が説明されたゴールと現状の状態が全く違う」といった意見を散見した。
【考察】
 本研究から、情報提供書を作成する上でそれぞれの立場に立つ理学療法士がどのような情報を望んでいるかが明らかとなった。病期ごとに必要としている情報は異なる部分もあるが、全体の共通項を形式化することで作成の効率化やデータベース化を図れるではないかと考えられる。また、リスク管理にかかわる具体的項目のリストアップが求められる。ゴール設定に関しては、情報を送った側に対象者の帰結が伝えられていないために、送り手としてゴール設定の精度が確認できない状況にある。この意味では、回復・維持期の理学療法士は前医療機関の担当者に情報を少しでもフィードバックする責務があるのではないかと思われる。なお、対象者の状態や経過が当初設定されたゴールと全く違うために対象者の期待が偏り、理学療法を実施するうえで弊害となる可能性への注意が必要となる。
【まとめ】
 情報提供の実情と希望内容が明確になったことで、より具体的な情報交換が行えるのではないかと考えられる。また、情報のサイクルによってゴール設定等の評価精度を高めることに繋がる可能性が期待できる。

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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