東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-027
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右肩関節外転第1相の有痛性制動に対し右上腕二頭筋・腕橈骨筋・棘下筋テープと右肩甲骨下方回旋テープを貼付することで明らかな可動域改善を認めた症例
*西田 美紗子森川 美紀磯田 真理大津 顕司椙本 剛史上杉 光臣宮本 啓治有川 功
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抄録

【目的】上肢の運動には体幹の固定が重要であることが知られてはいるが,有痛性肩外転制動症に対して肩甲上腕関節に生理的可動域拡大を得ようとした理学療法を行いがちであった.本症例も肩甲上腕関節に関与する筋機能不全に対する評価と治療を第1段階に行った.肩甲帯外転機能X-p検査をテープ貼付前後に行い比較したところ,テープ貼付後では肩関節外転開始時に肩甲骨が下方回旋していた.肩関節外転第1相では肩甲骨下方回旋して肩甲骨を脊柱・胸郭に固定し,その後上腕骨が外転運動し始めることが分かった.このことから今までの評価治療順序とは逆に,第1段階で仙腸関節と脊柱,第2段階で肩甲骨と鎖骨に対する治療を行い土台を固めた上で肩甲上腕関節に対する治療を行った方が良いのではないかと本症例を通じて学んだので報告する.
【方法】有痛性肩関節外転制動を呈した症例に対し以下のように評価を進めた.1) 治療前肩甲帯外転機能X-p検査を行った. 肩甲帯外転機能X-p検査は上腕骨,鎖骨,肩甲骨,脊柱が観察できるように撮影した.撮影肢位は立位で前腕中間位とした.肩関節0°位,45°位,90°位,最終域で撮影した.2)1相に関与する筋に対して触知・圧迫テストを行い最も外転しやすい筋にテープを貼付した.3)肩甲骨は肩甲骨上方回旋テープ,下方回旋テープ,鎖骨は鎖骨後退・後方回旋テープ,鎖骨肩峰肩甲棘テープ,鎖骨後方回旋テープを貼付し最も外転しやすいテープを貼付した.徒手的腸骨操作を行い左右腸骨後傾,左右腸骨前傾,腸骨右前傾・左後傾,左前傾・右前傾の4つのうち最も肩関節外転しやすいものを採用した. 4)治療後肩甲帯外転機能X-p検査を行った.5)運動器超音波検査(以下エコー)を行った.エコー機器はGE Healthcare LOGIQ P6を使用した.6)MRI検査を行った.X-p検査,MRI検査とも撮影は医師の指示のもと放射線技師が行った.対象者にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の趣旨を説明し,同意を得た.
【結果】患者情報:30歳代女性. 職業は配送業であった.主訴:患側への寝返りで右肩外側に疼痛が発現する. 受傷機転:初診3日前,段ボールの荷物を非予測的に挙上した際,右肩外側がピキッとなった.初診時所見:右肩関節を外転させようとすると疼痛が右肩外側に発現し,微動だに出来ない状態であった.1)右肩関節外転20°で有痛性制動が見られた.鎖骨の挙上はわずかに見られ,後方回旋・後退は見られなかった.上腕骨頭の滑り・転がりは見られなかった,脊柱の患側への側屈は見られなかった,肩甲骨の動きは見られなかった.2)右上腕二頭筋・腕橈骨筋・棘下筋にテープを貼付した.右肩関節外転は20°から145°に改善した.3)右肩甲骨下方回旋テープ,鎖骨後退・後方回旋テープ,腸骨右前傾・左後傾テープを貼付した.テープ貼付後に中斜角筋・肩甲挙筋ストレッチ,腹臥位上肢下垂, 肩関節中間位トラクション,橈骨手根関節モビリゼーションを行った.4)右鎖骨の後退・後方回旋, 右上腕骨頭の外旋・転がり・滑り運動が起き, 頸椎の右側屈がやや起き,右肩甲骨は右肩関節外転45°位では下方回旋が起こり,その後,上方回旋が起きた. 5)右上腕二頭筋長頭腱の筋腱移行部周囲に低エコー像が認められた.6) T2強調画像で右上腕二頭筋長頭腱周囲に高信号を認めた.右棘上筋前方部に部分断裂を認めた.
【考察】考察1)本症例は棘上筋の損傷によって「上腕骨頭を外旋させ上腕骨頭と肩甲骨関節窩の適合性を調整する」という棘上筋の機能が働かない.その代償として棘下筋・上腕二頭筋を働かせることで肩関節外転が可能になった.考察2)信原は肩関節外転0°から30°までは肩甲骨が下降あるいは内転すると述べている.治療後,肩関節外転初動時に下方回旋したのは肩甲骨下方回旋テープによるものと考えた.考察3)テープ貼付後,X-p上の外転最終域で鎖骨が後退・挙上・後方回旋しているのは鎖骨後退・後方回旋テープによるものと考えた.考察4)肩関節外転運動の初動は肩甲上腕関節ではなく肩甲骨の下方回旋による肩甲骨の安定である.本症例の評価治療前後で見られた変化は肩関節外転45°時の肩甲骨下方回旋運動であった.肩甲骨が安定することで肩甲上腕関節をつなぎ,上腕骨に作用する上腕二頭筋,棘下筋の機能不全が改善した.その結果,上腕骨頭の滑り,転がり,外旋運動を改善できたと考えた.
【まとめ】肩甲帯外転機能X-p検査をすることでテープ貼付前後での肩甲帯の変化を捉えることが出来た. 本症例は治療後肩関節外転開始時に肩甲骨が下方回旋していた. 肩甲骨下方回旋して肩甲骨を脊柱・胸郭に固定したことで上腕骨は可動性を得ることが出来た.本症例を通じて肩関節外転制動症に対する治療を行う際,制動最終域だけに注目するのではなく上腕骨が動き出す前の準備段階を調整することが重要であるということを学んだ.

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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