東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-59
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一般口述
下半身陰圧負荷における下肢動的運動が循環動態に及ぼす影響
*石黒 博也太田 友幸江西 一成
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抄録

【目的】 早期離床を図る中でADLに則した起立・歩行訓練が重要であり、抗重力位への姿勢変換が必須となる。抗重力位となると重力の影響により生体反応が生じ、また、運動負荷は重力負荷に加えて、いっそう複雑な循環調節が行われている。起立・歩行訓練は重力負荷と運動負荷が同時に加わっており、重力負荷時の運動が循環動態に与える影響を認識することは重要である。本研究で用いた下半身陰圧負荷(Lower Body Negative Pressure, 以下LBNP)装置は、実験姿勢に影響されずに水平臥位で重力負荷時の循環動態を観察できる方法であり、圧を調節することにより負荷を調節することができる。本研究では重力負荷時の下肢運動が循環動態に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】 対象は健常男性10名、年齢21±1歳、身長172.8±5.4㎝、体重63.0±4.9㎏、測定項目は1分毎に一回拍出量(SV)、心拍数(HR)、心拍出量(CO)、血圧(MBP)とした。立位負荷に相当する陰圧負荷(-40㎜Hg)をLBNPで加えた群(LBNP群)、背臥位で下肢エルゴメータにより運動負荷(20W・60rpm)を加えた群(Exercise群)、LBNP条件で運動負荷を加えた群(Combination群)の3群において、負荷を各10分間加えた。検討項目はSV・HR・CO・MBPを安静に対する各種負荷後の変化量を各群内で比較した。また、SV・HR・CO・MBPの各種負荷後の値を3群間で比較した。統計処理はDunnett及びTukey HSDを用いて、危険率5%未満を有意とした。
【結果】 LBNP群ではSV40%低下、HR29%上昇、CO17%低下とそれに続く圧受容器反射を認めた。Exercise群ではHR平均84bpm, MBPに有意な上昇はみられなかった。また、血流再配分により負荷初期にSV19%低下・HR29%有意な上昇を認め、その後SVでは有意差はみられなかった。Combination群では負荷前半にSV17%低下・HR46%上昇・CO22%上昇しておりLBNP群よりも有意に高値であった。負荷後半ではSV26%低下・HR52%上昇・CO13%上昇を認め、負荷前半と比較しSV低下・HR上昇した。
【考察】 LBNP群において-40㎜Hgの陰圧負荷は立位と同等の循環応答が確認された。Exercise群において負荷初期では血液再配分の影響により活動筋への血流量が増大したためにSV低下、その後は活動筋血流が一定となり負荷初期に比べSV変化が小さかった。Combination群の負荷前半において陰圧負荷が加わり、腹腔及び下肢に貯留した血液を筋ポンプ作用によって静脈環流量を増加させた。筋ポンプ作用は立位での動的な活動において重要な機能を担っている。しかし、負荷後半では持続的な陰圧負荷により、筋ポンプ作用の効果を越えた影響が増大したことが考えられた。
【まとめ】 今回、重力負荷における下肢動的運動が循環動態に与える影響を検討した。Combination群において負荷前半は筋ポンプ作用が効果的であったが、負荷後半は重力負荷の影響を認めた。重力負荷は大きな影響を及ぼすが、同時に下肢運動を行うことで筋ポンプ作用が効果的に働くと考えられる。以上より早期からADLに則した理学療法を行う場合においては、重力負荷のみを加えるのではなく下肢運動を伴った起立・歩行訓練を行うことが重要であることが確認された。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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