東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-58
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一般口述
気管分岐部切除再建術後の排痰に難渋した1症例 ―吻合部と非術側肺の保護に配慮した排痰法―
*千田 亜香夏井 一生大曲 正樹山本 敦也高塚 俊行守川 恵助
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キーワード: 気管癌, 姿勢管理, 排痰法
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抄録

【目的】 気管・気管支形成術を行った症例は、気道内の繊毛運動の障害から分泌物が貯留し、無気肺や閉塞性肺炎を来すリスクがある。今回、気管癌、食道浸潤に対し気管分岐部切除再建、胸部食道切除、胃管食道吻合を施行した症例において、気管支吻合部の保護、非術側肺の保護の2点に配慮した排痰法を実施したため報告する。
【症例と経過】 症例は、気管癌、食道浸潤、右上葉浸潤、右肺門リンパ節転移の59歳、男性。気管背側、食道に隆起性病変指摘され、生検にて扁平上皮癌と診断が下り、化学療法2クール実施。術前評価から理学療法介入開始。気管分岐部切除再建、開腹胃管作成、胸部食道切除、胃管食道吻合、右肺上葉部分切除、右肺門縦隔リンパ節郭清を施行。術後、酸素化能の悪化のため人工呼吸器管理となった。術後1日目は循環動態が不安定で積極的な体位排痰法が実施困難であった。また吻合部保護のため吸引カテーテルの挿入を制限され、またPEEPも0㎝ H2Oで管理された。術後2日目に炎症反応が上昇、PaO2/FIO2(以下P/F比、酸素化能の指標)168、術後3日目にP/F比149まで低下。聴診上、両下葉から吸気と呼気で断続性ラ音聴取されるが、吸引カテーテルで吸引可能な範囲まで分泌物の移動が困難、画像上で右中下肺野に浸潤影を認めた。よって術後3日目から気管支鏡での吸引を医師により開始したが、十分な分泌物の除去には至らなかった。そのため術後4日目からは気管支鏡実施前に理学療法介入、体位排痰法を併用した。右側臥位に比べ左側臥位でP/F比がより良好であったが、左肺への分泌物の流入の防止のため、理学療法介入時を除いて背臥位から右側臥位での姿勢管理とし、また理学療法士が介入できない場合は看護師により体位排痰法が実施された。術後14日目に炎症反応の改善、P/F比213まで上昇、聴診上両下葉での断続性ラ音の改善、画像上の浸潤影の改善が認められ、気管支鏡での吸引を終了。術後15日目から人工呼吸管理下での離床、排痰とウィーニングを開始した。
【考察】 経過より症例の問題点を、気管支吻合部の保護のため吸引カテーテルの挿入が制限されたこと、非術側肺の保護の必要性があったことの2点と捉えた。吻合部の保護については、右肺に貯留した分泌物を体位すなわち重力にて気管支鏡での吸引が可能な範囲まで移動させ、医師により可視下で除去をすすめた。非術側肺の保護について、右肺に貯留した分泌物が非術側肺へ流入することを防ぐため、背臥位から右側臥位での姿勢管理とした。これらにより、重篤な合併症を引き起こすことなく人工呼吸器からのウィーニングに繋げることができたと考えられる。
【まとめ】 吻合部の保護のために実施した体位排痰法や、非術側肺の保護を目的とした姿勢管理を実施することにより、術後肺炎の改善、および人工呼吸器からの離脱が可能であった症例を経験した。術後、積極的な体位排痰法の実施は必要であるが、非術側肺の保護や循環動態への配慮といったリスク管理が必須である。医師や病棟と連携し一連の治療の中で、理学療法の介入が効果的なドレナージの一助となったと考える。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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