抄録
【目的】 大腿骨近位部骨折は、高齢者に代表的な骨折で受傷後ADLやQOLの低下、生命予後が問題となり、術後早期歩行を開始し、歩行を再獲得することが重要な課題となる。当院では、大腿骨近位部骨折術後のリハはクリニカルパス(以下パス)に準じて実施しており、今回、歩行がパスに沿って開始できたか調査を行い、早期歩行と予後の関連性について若干の知見を得たので報告する。
【方法】 対象は、2010年4月から2011年3月までに当院で大腿骨近位部骨折にてリハを施行し、かつ受傷前歩行が可能であった80例(男性15例、女性65例)とした。パスでは術後2日目に座位、3日目に起立、4日目に平行棒内歩行、5日目に歩行器歩行開始を目標としている。歩行開始が術後5日以内の例を早期群(以下A群)、6日以上要した例を遅延群(以下B群)、歩行に至らなかった例を不能群(以下C群)と分類した。調査項目は年齢、受傷前歩行能力、パス進行状況(術後リハ・座位・起立・歩行開始までの日数)、個人因子、退院時歩行・トイレ動作能力、転帰とした。統計処理はystat2008を使用し、年齢、パス進行状況は対応のないt検定、受傷前歩行能力、個人因子、退院時歩行・トイレ動作能力、転帰はFisher検定を行い、有意水準はいずれも5%未満とした。
【結果】 内訳はA群28例(35.0%)、B群45例(56.3%)、C群7例(8.7%)であった。年齢は79.8±8.8歳、86.7±6.8歳、88.9±1.9歳で各群間で有意差を認めた。受傷前歩行能力は杖歩行以上が23例(82.1%)、37例(82.2%)、2例(28.6%)であり、C群では有意な低下を認めた。パス進行状況における術後リハ開始は2.6±1.5日、3.3±1.6日、4.4±3.0日、座位開始は2.8±1.3日、3.6±1.5日、5.4±3.0日、起立開始は3.3±1.3日、4.8±2.2日、11.6±11.5日でA群では有意に早かった。C群を除いたA群とB群で歩行開始は3.9±1.2日、9.1±3.9日、退院時歩行能力は杖歩行以上が19例(67.9%)、13例(28.9%)、退院時に歩行にてトイレ動作が可能であったのは21例(75.0%)、19例(42.2%)でそれぞれ有意差を認めた。転帰は自宅退院がA群13例(46.4%)、B群5例(11.1%)、C群0例(0%)でA群では自宅退院の割合が有意に高かった。個人因子はせん妄、術後全身状態、認知症、意欲低下、術後荷重制限でA群とB・C群間で有意差を認めた。
【考察】 今回の調査で、パスに沿って早期歩行が開始できた例は35.0%であった。B・C群では術後リハ開始が予定より遅延する傾向にあり、その後の歩行に影響を与えたと考えられた。また高齢や受傷前歩行能力低下に加え、せん妄、認知症、意欲低下といった因子を有する例が多く、これらが歩行獲得を遅延する要因になったと考えられ、個々に応じた適切な対応を行う必要性を感じた。早期歩行開始が退院時歩行やトイレ動作能力の向上に繋がり、結果として自宅退院が増加すると示唆され、大腿骨近位部骨折術後のリハにおいて早期歩行の有効性を確認できた。
【まとめ】 今後、パスに沿って早期歩行を進めるには標準的プログラムの作成や綿密な連携によるチームアプローチが求められると認識した。また、活動レベルでのミニパスの必要性を感じた。