東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-61
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終末期乳癌患者のリハビリテーションを経験して ~目標設定に難渋した一症例~
*中島 由季辻 聡浩山田 高士郎
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キーワード: がん, 目標設定, QOL
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抄録
【はじめに】 当院は地域がん診療連携拠点病院に指定されており、平成22年よりがんのリハビリに介入した。一般的に、がんのリハビリとはQOLの向上に重点を置き、変化していく病状に合わせて、ADLの改善、維持、緩和的ケアへとギアチェンジしていく必要があると言われている。今回、我々は病状に合わせて、目標設定していくことに難渋した症例を経験したため報告する。
【倫理的配慮】 当院倫理委員会規定に基づき、家族の同意を得て報告する。
【症例】 60歳代女性。2012年11月対麻痺のため救急搬送され同日入院。当院へ搬送される3週間ほど前から、両下肢のしびれと脱力感を自覚し、3日前には立つこともできなくなっていた。入院した時点で左乳癌stageIV。精査の結果、胸水貯留や多発骨転移を認め、胸椎転移による対麻痺を認めた。治療方針としては、病状進行遅延目的での化学療法で経過をみていくこととなり、緩和ケアチームの介入の一環として、第19病日より「拘縮予防」を目標にリハビリ介入となった。
【理学療法経過】 開始時、ベッド上寝たきりの状態で、両下肢とも弛緩性麻痺、両下肢の触覚鈍麻、痛覚脱失。また、下位腹筋群も麻痺しており寝返りも全介助の状態であった(FIM総点55点PS:4)。しかし、本症例の希望は「歩いてトイレに行きたい」であった。再評価した結果、歩くことは困難でも車椅子駆動やトイレへの移乗は可能ではないかと考え、硬性コルセットを作成し離床を開始。起立台での起立、端座位、車椅子移乗、電動車椅子駆動と徐々に離床をすすめていった。少しずつ全身状態は悪化していったがリハビリに対する期待は大きく「歩いてトイレに行きたい」という希望は最期まで変わらなかった。病状悪化に伴って、歩行は不可能であることについて説明するべきかとも思われたが、緩和ケアチームで話し合い、わざわざ患者の希望を断ち切るような説明はしないほうがよいのではないかとの結論に至り「歩く」「トイレに行く」という目標は変えなかった。その後、抗がん剤の副作用で心不全の状態に陥り、敗血症や肺炎も併発し、第108病日に永眠された。
【考察】 本症例は、認知面は保たれており、最期まで自立しようとしていた。「トイレに行きたい」「歩行訓練がしたい」などの本人の意思がはっきりしており、リハビリによって、寝たきりの状態から、一時は電動車椅子での離床(FIM総点55点から58点へ)を果たした。離床のタイミングが少しでも遅れていたら、本症例は一度も離床することなく最期を迎えていたと考えられる。実際はトイレへの移乗も歩くこともできなかったが、病的骨折等のリスクを考慮し、できる限りの離床をすすめたことで、最期まで「歩行訓練がしたい」と歩行獲得への希望をもって前向きに治療に取り組むことができたのではないだろうか。
【まとめ】 本症例を通して、がんのリハビリではギアチェンジのタイミングを見逃さないように、リハビリの目標は変化させていかなければならないことを学んだ。また、できる限り可能な最高のQOLを実現するべく、医療者は科学的根拠に基づいたリスク管理を行いながらも、患者本人のニーズにできるだけ応える姿勢をもつ必要があると感じた。
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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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