東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-82
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THA後の深部静脈血栓症により下肢に著明な腫脹を認め、後療法に苦渋した1例
*草壁 美穂大森 弘則正田 直之野形 亮介小島 宗三花木 このみ水野 詩織溝口 佳奈豊田 理恵
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抄録

【はじめに】 深部静脈血栓症(以下DVT)の発生予防に関する理学療法についてはこれまでに多く述べられているが、DVT発症後の下肢腫脹に対する有用な理学療法に関する報告はほとんどない。また術後のDVTで問題となるのは、浮遊血栓に続発する肺塞栓症であるが、この場合下肢は無症候性であるのに対して、閉塞性血栓の場合、静脈還流障害による下肢の著明な腫脹が出現し、歩行や運動障害をきたす。今回、人工股関節全置換術(以下THA)後にDVTによる著明な下肢腫脹が発生し、後療法に難渋した症例を経験したので報告する。尚、本発表にあたり症例から同意を得ている。
【症例】 58歳女性。両側の末期変形性股関節症に対し、H23年10月に左のTHAを施行した。術後2日目の下肢静脈エコー検査にてDVTを認めなかったため、起立・歩行を開始し、当院のクリティカルパスに通りに後療法を行った。しかし、術後3週1日目の外出後より、左下肢の周径が対側右より大腿で+8.0㎝・下腿で+6.5㎝と著明な腫脹と、下腿前面に発赤を認めた。術後4週2日目には、左の下肢周径が大腿で+4.5㎝・下腿で+4.0㎝と腫脹が一時軽減したため、H23年11月に対側右のTHAを施行した。
【経過】 右のTHA後2日目に実施した下肢静脈エコーにて、対側左下肢の膝窩静脈より総腸骨静脈まで完全閉塞する巨大血栓が発見された。その血栓は既に器質化しており、左のTHA術後3週1日外出時に形成されたものと判断した。早速抗凝固療法を開始し、起立訓練も術後3日目より開始した。術後5日目には歩行器歩行も自立したが、立位での活動時間の延長に伴い、左下肢の周径が大腿で+6.5㎝・下腿で+5.5㎝と再び腫脹が増大した。また、立位時のうっ血所見、Luke徴候、表在静脈の怒脹を認めた。術後1週目には100mの歩行で、疼痛と緊満感による静脈性跛行を認め、T字杖歩行への移行が困難となった。そこで、末梢から大腿近位部まで弾性包帯にて下肢全体を圧迫し、臥位にて足趾の屈伸・足関節底背屈・股関節屈伸の自動運動(以下圧迫療法)を1日2回実施し、弾性包帯の着用を持続的に行った。就寝時には30㎝の台を使用し、下肢挙上位を9時間実施した。後療法開始2週目より緩徐ではあるが腫脹は軽減傾向をみせた結果、術後5週でT字杖歩行の自立と階段昇降が自立した。その後、左下肢の周径は大腿で+2.5㎝に軽減し、下腿では左右差がない状態まで改善し、術後6週5日での退院となった。
【考察】 DVT発症後の治療は薬物療法と安静が基本となる。これは、浮遊血栓に続発する肺塞栓症が懸念されるためである。また、DVT発症後の理学療法の開始時期とその具体的方法については明確にされていないため、理学療法は消極的にならざるを得ない。しかし本症例の場合は、下肢静脈エコー検査により血栓が器質化していたため、翌日から理学療法を積極的に行うことが可能であった。また、閉塞性血栓に伴う左下肢の緊満腫脹に対して、圧迫療法、弾性包帯の持続的着用と下肢挙上を実施することで、腫脹の軽減が図れた。しかし、側副血行路の発達には時間を要するため、腫脹の軽減は緩徐であり、後療法の長期継続が必要であった。今後も理学療法の介入が重要であることが示唆された。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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