抄録
【目的】 大動脈の伸展性低下は、特に虚血性心疾患などの危険因子である。動脈伸展性の改善要因に血流量増加によるshear stressや乳酸の蓄積があり、最大酸素摂取量の50%の運動強度が推奨されているが、心肺系機能が低下した対象者ではリスクが高くなる。血管拡張率はshear stress、血流量は運動強度に比例する。そこで我々の先行研究で、他動、低強度の自動運動でも静脈環流量の変化より一回拍出量の増加を引き起こす足関節の底屈運動に着目し、動脈伸展性への即時効果を検討した。結果、他動運動のみで運動肢、非運動肢ともに動脈伸展性が改善し、自動運動では非運動肢の動脈伸展性の低下傾向さえ認めた。脳卒中患者のように麻痺側の動脈伸展性が低下している対象者も存在する。したがって、今回単関節運動と非運動肢の動脈伸展性への影響を検討したため、若干の考察を含めて報告する。対象者には口頭、および紙面にて説明し同意を得た。また聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認のもと実施した。
【方法】 対象は健常成人男性16名(23±2歳)とした。方法は、背臥位での他動、自動(10%MVC)の足関節底屈運動(左下肢、膝関節伸展位)、60回/分の収縮頻度にて5分間実施した。動脈伸展性は、form PWV/ABIによる上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)を安静時、運動後より3分毎に計20分間測定した。運動肢の血流量として総ヘモグロビン量(total-Hb)、静脈還流量は脱酸素化ヘモグロビン量(deoxy-Hb)を安静時、運動中に測定した。さらに乳酸値も安静時と運動後に測定した。
【結果】 他動運動によるbaPWVの変化は、非運動肢で6, 9分において有意に低値を示し(p<0.05)、平均30-40㎝/secの動脈伸展性の改善を認めた。一方で自動運動では1133.3±134.9, 1159.8±109.9, 1151.3±107.4, 1161.9±101.1, 1168.2±113.6, 1172.8±113, 1170.6±113.3, 1171.5±105.8㎝/secと運動直後より動脈伸展性の低下傾向が見られた。total-Hb, deoxy-Hbは、両運動ともに運動肢で増加傾向を示した。自動運動時の乳酸値は、運動後有意に高値を示した(p<0.05)。
【考察】 今回、単関節の自動運動で運動直後より非運動肢の動脈伸展性が低下傾向を示した。要因として、運動時の主動作筋が関与すると考える。膝関節伸展位の主動作筋は腓腹筋であり、筋組成が速筋に分類される。昇圧反応は速筋の分布割合に依存し、代謝受容器反射の影響を受ける。また乳酸は血管収縮反応にも関与すると報告されている。そこで本研究も乳酸が増加したため、昇圧反応が起き、非運動肢の動脈伸展性の低下傾向を認めた可能性がある。したがって、特に脳卒中患者のような麻痺側の動脈伸展性が低下している対象者では、低強度負荷でも単関節運動を行う場合は、非運動肢の動脈伸展性への影響を念頭に置くとともに、自動運動後に非運動肢に他動運動を取り入れるなどの配慮が必要であることが示唆された。
【まとめ】 本研究より、単関節の自動運動では、非運動肢の動脈伸展性を低下させる可能性があるため、運動処方の際には注意が必要であることが示唆された。