東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: S-08
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主題演題
継続的なリハビリテーションの実施にも 関わらず、心拍変動と自律神経反応が 徐々に悪化した虚弱透析患者の検討
*矢部 広樹河野 健一西田 裕介
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抄録

【諸言】 透析患者において、心拍のR-R間隔から解析する心拍変動(SDNN)の減少や自律神経障害は、心臓突然死や種々の合併症のリスクになると言われている。先行研究より、適切な運動療法は、圧受容器感受性の改善を通じて、心拍変動や自律神経障害を改善させると報告されている。そのため、透析患者に対して心拍変動と自律神経反応の改善を目的とした運動療法が重要であると考えられる。しかし継続的なリハビリテーションの実施にも関わらず、心拍変動の改善が見られず、自律神経反応が徐々に悪化した症例を経験した。今回は虚弱透析患者に対する運動療法の負荷設定について、本症例検討を通じて考察する。
【症例紹介】 社会的な理由で長期入院中の70歳台の透析患者。身長165㎝、Dry Wight53.5㎏、BMI19.5。ADLは車椅子レベルで、生活全般に軽介助が必要な状態であり、歩行はリハビリ実施中に訓練目的で実施するのみであった。介入期間を通じて疾患等のイベント発生はなかった。本検討はすべてヘルシンキ宣言に従い、対象には書面および口頭にて発表の同意を得た。
【理学療法評価とプログラム】 リハビリテーションは非透析日と透析後に、安静時の心拍変動と自律神経活動を測定した後、筋力増強と運動耐用能の改善を目的に、起立・歩行訓練、リカンベントエルゴメータ運動を実施した。運動はすべて過剰な交感神経活動を抑制するために自覚的運動強度の13程度を上限とした。またリカンベントエルゴメータ運動は、低強度で実施するために設定できる最小の負荷量にて実施した。運動効果のアウトカムとして、安静時の心拍変動からSDNN、迷走神経活動の指標であるrMSSDとHF成分、交感神経の指標であるLF/HFを測定した。運動のパフォーマンスとして10m歩行速度を毎回のリハビリ実施時に測定した。
【結果】 介入期間は3月5日から6月5日までの12週間。透析日と非透析日を併せて、平均して週に3-4回介入した。結果、介入期間を通じてSDNNと10m歩行速度は改善せず、徐々にHF成分は減少、LF/HFは増加を示した。
【考察】 運動が自律神経活動へ与える影響について検討した先行研究では、嫌気性代謝閾値(AT)での強度にてエルゴメータ運動を実施した結果、12週間の実施でSDNNに改善が見られ、8週では効果が見られなかったことが報告されている。しかし本症例は12週間の実施にも関わらず徐々に値が低下したことから、負荷強度の設定に問題があったと考えられる。漸増運動負荷時のHF成分は、運動開始と共に徐々に低下し、AT付近で消失することが報告されている。本症例のHF成分は安静時から非常に低かったことから、運動に対する心肺系の予備能が低いことが考えられる。そのため本検討で実施した強度であっても、過負荷であった可能性が否定できない。今後は、より低強度での運動を実施していく必要があると考えられる。
【結語】 本症例のような虚弱透析患者に対しては、先行研究同様の設定で運動をすることは難しい場合が多い。今後は自律神経活動も含めた評価方法と、個別的な運動の設定方法の確立が必要であると考えられる。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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