東海北陸理学療法学術大会誌
第28回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: S-10
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主題演題
「年代別Functional reach test標準値」の作成と関連要因の検討
*中井 美香木林 勉
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抄録

【目的】 年代別にFunctional reach test(以下FRT)の標準値を作成する。また、それに関連する要因を明らかにすることで、理学療法を行う上でのバランス能力の経時的変化や効果的な転倒スクリーニングの基礎資料とする。
【方法】 対象は、大学学園祭で本研究の参加を募り、それに応募した163名(男性70名、女性93名)とし、平均年齢は45.1±17.1歳(20-78歳)であった。対象者には本研究の概要を説明し、本人の参加意思を確認後書面にて同意を得た。年齢、性別を聴取し、FRTと身体特性(身長、体重、下肢長、上肢長、足長)、運動機能(握力、足指筋力、重心動揺総軌跡長)を測定した。FRTとの関連には、Peason積率相関係数で分析し、有意水準は5%未満とした。
【結果】 FRTと身体特性の関連は、身長(r=0.436)、上肢長(r=0.31)、足長(r=0.307)、下肢長(r=0.27)、体重(r=0.236)の順に有意な相関があり、また身長とその他の身体特性にて正の相関が見られた。本研究では、個々の比較において身体特性の影響を考慮し、FRTを身長補正した年代別標準値(FRT/height±2SD)を求めた。結果は、20-30代男性19.2±4.8、女性19.4±5.2、全体19.3±5.0、40-50代男性17.9±5.2、女性18.9±6.2、全体18.5±5.8、60代以降男性15.8±7.4、女性16.1±7.4、全体16.1±7.4となった。身長補正したFRTと運動機能の関連では、握力は20代女性(r=0.542)と20代男性(r=0.436)、足指筋力は20代女性(r=0.784)、30代男性(r=0.622)で相関を認めた。
【考察】 年代別FRT標準値では、年代が上がるにつれてFRT値は減少する結果となり、先行研究同様の結果であった。加齢に伴い動的バランス能力が低下することがこれにより示唆された。FRTと運動機能の関連では、20代、30代において握力や足指筋力がFRT値との相関を示したことから、安定した前方リーチを保障するには筋力の関与が大きいと推測された。藤原は、足圧中心位置が立位安定域内(踵から足長の約30~60%)にある場合筋力は殆ど関与しないが、安定域外では筋活動量によって立位の安定性が左右されると報告している。若年者は足関節戦略で前方に重心移動し、筋力によってバランスを制御していると示唆される。加齢に伴い姿勢制御は股関節戦略が優位となり、前足部で制御しにくくなる。そのため、40代以降では筋力と関連が認められなかったと考える。25㎝前後のFRT値では前方に重心移動せずとも姿勢変化でリーチできるとの報告から、このような要因も40代以降のFRT値と関与している可能性がある。
【まとめ】 本研究では、FRTと最も相関が高い身長を補正する項目として選択し、身長補正し年代別FRT標準値を作成した。また、FRTと運動機能との関連では、年代によってバランスを制御している要因が異なり、筋力や姿勢制御によってバランスを保持していると推測された。

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© 2012 東海北陸理学療法学術大会
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