2022 年 34 巻 201 号 p. J85-J90
糖鎖の3次元構造は水溶液中で激しく揺らいでいる。こうした分子構造の動態(ダイナミクス)が、糖鎖を認識する分子との相互作用を支配するとともに、糖鎖の担体であるタンパク質の機能の制御にも深く関わっている。糖鎖工学や糖鎖認識系を標的とする創薬において、標的分子と結合した糖鎖のコンフォメーションとともに非結合状態の糖鎖の3次元構造動態を定量的に理解することが極めて重要である。非結合状態の糖鎖のコンフォメーション空間を改変することで、レクチンに対する親和性を向上することが可能となる。さらに、糖タンパク質を構成する糖鎖は、タンパク質部分の立体構造ダイナミクスにも影響を与えている。それゆえ、糖タンパク質の高機能化を目指した分子設計においては、糖鎖とタンパク質が一体となった分子内の相互作用ネットワークの存在を考慮する必要がある。糖鎖の4次元構造が担う生命情報を読み解くためには、実験科学・計算科学・情報科学の観点からのアプローチが今後益々重要となるであろう。