時間学研究
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旧黒羽城の「時鐘銘」及び黒羽藩政史料『創垂可継』に見える時間に関連した記述の研究
近世中後半期の下野国黒羽藩の士民の昼間の各時刻ごとの行動を中心に
大沼 美雄
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2021 年 12 巻 p. 79-95

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抄録

中国にも日本にもいわゆる年中行事の類がまとめて記述された古文献が数多く伝わっている。例えば,中国に伝わったものを挙げれば『詩経』七月・『礼記』月令・『大戴礼記』夏小正・『四民月令』・『逸周書』時訓解・『同』月令解・『荊楚歳時記』・『管子』四時・『呂氏春秋』十二紀・『淮南子』時則訓・『三才図会』時令など,日本に伝わったものを挙げれば『本朝月令』・『両朝時令』・『日本歳時記』・『東都歳事記』・『九条年中行事』などと枚挙に遑が無いが,これらによれば1年のうちの何月に或いはもっと具体的にその何日に何が行われていたかを知ることができる。ただ,あくまでも1年間の行事を月ごとに又は月日ごとに記述したものであり,1日のうちに行われることを時刻ごとに記述したものではないので,1日のうちのいつ頃に何が行われていたかは殆ど知ることができない。1日のうちのいつ頃に人々がどのような行動を取っていたかについては殆ど知ることができないのである。実は下野国(現栃木県)の旧黒羽城の「時鐘銘」の中の近世中期に撰文された箇所には昼間のみに限定されてはいるが士民の行動を各時刻ごとに記述した部分がある。また,近世後期に成立した黒羽藩政史料『創垂可継』には藩士たちが取るべき行動を具体的な時刻を交えて記述した部分などがある。それで本研究では,旧黒羽城の「時鐘銘」の中の士民の昼間の行動を各時刻ごとに記述した部分を取り上げ,それを専門的な漢学(中国学)の手法や『創垂可継』の中に見える藩士が取るべき行動を具体的な時刻を交えて記述してある部分,また時刻の異名(十二時異名)の中でも特にその時刻に取られる人間の行動を語源とするものなどを用いて解読し,近世中後半期の黒羽藩の士民が昼間の各時刻ごとにどのような行動を取っていたかを明らかにしたものである。

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