時間学研究
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研究という個性的な営みの質の評価に関わる一考察
時間学による科研費と論文数の分析を事例に
椿 光之助
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2023 年 14 巻 p. 43-52

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抄録
 本稿では、大学の研究支援における研究力の評価のための指標としては極めて基本的な科研費と論文数を用いて、モデル分析に基づくケーススタディを行った。これにより、わずかな数の指標がかかわる因果関係を検討しても、それで把握される研究者の状況が極めて多様になり得ることがわかった。このような状況では、理想的で画一的なキャリアパスのガイドラインを設定し、そこからの乖離を検出して支援対象を見つけて支援策を講じる発想では、研究者の多様性に阻まれ、期待通りの効果が得られない可能性が高いことが予想された。そこで、大学の研究支援の担当部署は、データを用いた費用対効果の分析に基づき、利用される可能性がある程度低い支援策であっても可能な限り多く企画し、多様な支援メニューを設けて、研究者が必要な支援を選んで使えるように準備することが望ましいとの結論を導いた。研究力の考察は、時間軸上のいろいろな点に存在する研究活動の評価に関わる事柄であり、時間学の要素を持つ。また、因果関係の考察も、時間軸上の過去に位置する事象が後の時期に位置する事象の原因となる関係を分析するという点で、時間学の要素を持つ。本稿の学術的貢献は、こうした時間学を研究力の評価に関わる課題に適用可能であることを示したことである。また、本稿の社会的貢献は研究推進の実務で参考になる基礎的な知見を得たことである。
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© 2023 日本時間学会
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