抄録
岩手県雫石町において,カラマツ林皆伐跡地に天然更新した約8年生のウダイカンバ幼齢木を加害していたハンノキカミキリの羽化,産卵および被害について調査を行った。成虫は5月下旬〜6月中旬の約2週間に集中して脱出した。2年間の脱出調査の結果,岩手県ではハンノキカミキリは1世代に2年あるいはそれ以上を要することが示唆された。雌成虫は産卵のために幹上に縦長の噛痕を付け,その上端に産卵痕を形成した。産卵痕形成は6月中旬〜8月上旬まで約2ヶ月間継続した。産卵痕は林分内では集中分布し,産卵痕数とウダイカンバの胸高直径の間には有意な正の相関が認められた。また,産卵痕は幹上にのみ形成され,幹の高さ60cm以下に81.7%が集中した。コブ,フラス排出,脱出孔といった被害痕数は,木あたり3.75個,立木被害率は82.4%であった。被害痕の林内分布にも集中性が認められ,被害痕数と胸高直径の間には有意な正の相関が認められた。幹上では,被害痕は41-60cmの間に26.1%と最も多く,それよりも上方および下方に向かって漸減した。林分内や幹上の被害痕の集中性は,雌成虫が胸高直径の大きい木および幹の下方部に選択的に産卵することによると考えられた。