本研究では,調査事例の少ない東北地方日本海側の冷温帯林に生息するタヌキの食性とその季節変化を糞分析により明らかにした。2018年12月から2019年11月にかけて,山形県庄内地方の高館山周辺における20箇所のタメフン場から合計126個の糞サンプルを採取した。採取した糞の内容物から,各餌項目の出現頻度および相対出現頻度を算出した。また,食物構成と食性のニッチ幅の季節変化を調べるために,主座標分析 (Principal coordinate analysis; PCoA) と食性幅の算出をおこなった。糞分析の結果,昆虫類,種子,果肉が年間を通して多く出現した。出現した果実の主要種は,サルナシ (
Actinidia arguta),オオウラジロノキ (
Malus tchonoskii),アオハダ (
Ilex macropoda),ケンポナシ (
Hovenia dulcis) で,それらの利用頻度は季節によって異なっていた。哺乳類や鳥類,甲殻類,ミミズ類は,季節によって利用状況が異なっていた。PCoAと食性幅の結果から,季節変化にともなう食物構成の変化は冬から春への変化が最も大きく,その際に食物構成が多様化することが示された。これらの結果は,先行研究と概ね一致していた。本調査地に生息するタヌキは,他地域と同様に,生息環境下で入手可能な食物を状況に応じて利用していることを示している。
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