東北森林科学会誌
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論文
東北地方における絶滅危惧種エゾノウワミズザクラの集団構造と開花結実特性
石田 清 倉内 優衣中林 綾香
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2021 年 26 巻 1 号 p. 1-12

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抄録

東北地方における絶滅危惧種エゾノウワミズザクラ2集団 (「五所川原」と「板柳」) を対象に集団の構造と開花結実特性を調べた。GBH 15cm以上の幹についてみると,2集団合計で151幹あり,1〜41幹からなる15のパッチが観察された。五所川原の方が板柳よりもパッチが少なく,その密度も低かった。1花序あたりの両性花数には有意な集団間差があり,板柳の方が五所川原よりも 20%多かった。一方,2集団の結果率の平均値は 0.9%ときわめて低かった。1パッチあたりの結果率にも有意な集団間差があり,パッチの幹断面積で重みづけして平均した結果率については,板柳の方が五所川原よりも40倍以上高かった。板柳では,幹サイズが大きいパッチほど高い結果率を示す傾向も認められた。さらに,授粉実験により,本種は不完全な自家不和合性を持つこと,また,花粉制限指数は2集団両方ともに 0.97〜0.99と高く,他家受粉不足によって結果率が大きく減少していることが明らかとなった。他家受粉花の結果率も 17%と低いことから,他家受粉不足以外の要因も結果率を減少させていると考えられる。結果率の減少によって生じる種子生産の減少は,集団のレジリエンスを低下させ,さらには「絶滅の渦」を回す可能性があることから,東北地方における本種の長期的な保全管理を図るためには,結果率減少の原因とその集団間変異の解明のみならず,種子生産の減少が集団の存続に及ぼす影響を予測する必要がある。

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