Japanese Journal of Tropical Medicine and Hygiene
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カダヤシとメダカにおける脳炎媒介蚊の駆除, および両種の蚊幼虫捕食能と競争に関する生態学的研究
佐藤 英毅
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1989 年 17 巻 2 号 p. 157-173

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抄録
1969年に徳島市に移殖されたカダヤシGambusia afiinisの, 蚊幼虫防除に果たす役割について調査した。繁殖地の池や溝で採集したカダヤシを, 低湿地帯や下水溝に繰り返し放魚したところ, 翌1970年には7カ所, 1971年には36カ所, 1972年には76カ所, および1973年には104カ所の水域に定着した。これらのうち, かつてメダカと蚊幼虫が共存していた水域が27カ所あった。これにカダヤシが定着し, 1973年迄には, それらの全ての水域から蚊幼虫が消失した。一方, これらの水域ではメダカの生息密度が低くなった。カダヤシの生息密度が高かったのは, 止水域ないし家庭排水が流入して富栄養化の進行している水域であった。カダヤシとメダカの混生する水域では, 両種の生息密度が1m2当たり400-500尾の範囲にあり, メダカの生息密度が既にこの範囲にある水域にカダヤシを定着させるためには, 多量に放す必要のあることが示唆された。室内試験の結果, カダヤシはメダカに比べて, 蚊幼虫をよく捕食することが分かった。カダヤシとメダカを同一の容器で飼育した場合, カダヤシはメダカを攻撃し, 駆逐してしまった。野生個体の胃内容物は類似し, 両種とも広食性であるが, カダヤシの方が, より動物食性の傾向を示した。また, 両種は空間および食物連鎖上の, 競争種であることが示された。この研究では, 蚊幼虫の防除にはメダカに比べてカダヤシの方が適していることが示された。ここで観察した水域では, カダヤシはメダカより生存競争上優位であり, その生息域を拡大している事が分かった。
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