抄録
本稿の目的 は,学力下位層の私立大学生への調査を通して,性別,分野別の違いに注目し ,かれらの就業意識の特徴を明らかにすることである .分析,検討の結果,大学生の就業意識について,一般的に大手企業志向が高まる中, 企業の規模や知名度については,理系より文系が高い傾向があるものの全体的に関心が低かった.しかし, その要因には,入学難易度の高くない学生は 最初から大手企業を考えていないといったこれまでの指摘とは異なり,かれらは自身の能力を考慮し,大手企業志向を意識的に低下させざるを得ないとの考えや ,適職信仰を 持ちながらも現実的な目標を設定し,不安を乗り越えよう とする意識があったのである .また, 性別や分野を問わず収入面を重視する傾向がみられる等,仕事の雇用条件に対する関心が高かったの は,将来の仕事や生活に対する漠然とした不安を抱え,自身の能力で就職できる企業は,ブラック企業 の条件 とされる厳しい労働環境である 可能性が高いことを自覚していることや,現実を受け止めることで生じる学校から社会への移行後の生活に対する不安が背景にあると論じている.