東海社会学会年報
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外国人ニューカマー青少年の進路選択と出身国の社会的状況
名古屋市と豊田市における中国人ニューカマー後期 1.5世代を例に
許 佳辰
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2018 年 10 巻 p. 144-157

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抄録

本稿の目的 は,日本における中国人ニューカマーの後期 1.5世代子どもの進路選択にたいする,中国の教育における不平等構造による影響を分析する ことである.分析にあたって,中国人ニューカマー後期 1.5世代生徒を取り巻く家庭状況と社会的状況 ,出身国での出身地と日本での受け入れ地域との賃金差といったことも視野に入れる. 中国では,能力別学級編成によって,義務教育の早期段階から都市にある重点学校に進学できる生徒は,高等教育へ進学する意識をもち,郷鎮農村 1) にある非重点学校出身の生徒はそれを断念する可能性が高い.そのため,本稿は名古屋市と豊田市における二つの日本語教室に通っていた中国人ニューカマー後期 1.5世代生徒に着目し,かれらを都市の重点学校出身のグループと郷鎮農村の非重点学校出身のグループに分けて比較した. 分析の結果は以下のようになる. 中国人ニューカマー の後期1.5世代は,従来の日系ブラジル人の子どもと違い,教育達成に恵まれる社会的状況に置かれている .しかし中国の郷鎮農村の非重点学校出身のグループは,上昇意欲をもっているにもかかわらず, 教育達成が低いレベルにとどまり,早期非正規就労に定着していく.かれらのこうした進路選択の傾向は,中国と日本の間の賃金差,日本語能力が低くても参入できる労働市場の存在といった事象によって補強されている.それにたいして,中国の都市の重点学校出身のグループは高等教育進学の意識が強く,日本の労働市場の状況による影響をほとんどうけていない. このような結果をうけて,現在盛んに行われている定時制高校への入学支援は,出身階層や地域の点でハンディのある中国人ニューカマーの後期 1.5世代にみられる階層的再生産の連鎖を断ち切ることは難しく,将来社会問題化しかねないことがわかった.とくに低階層出身マイノリティの若者たちの教育に関しては,この点を配慮した支援のありかたが求められるといえよう.

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