特殊教育学研究
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表出手段に制限のある脳性まひ幼児のeye pointingを用いた選択行動の形成
鈴木 由美子藤田 和弘
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1997 年 34 巻 4 号 p. 1-10

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抄録

本研究は、表出手段に著しい制限があり、現時点で有効な伝達行動を持たない脳性まひ児に対して、選択行動としてのeye pointingを形成するためのプログラムを作成し、その有効性を検討することを目的とした。最初に、(1)運動まひや話し言葉の障害が重度な脳性まひ児であっても随意性が保たれる眼球運動を活用する、(2)言語理解の発達が初期段階にある脳性まひ幼児にも適応可能である、(3)実施手続きと評価基準を明確にする、の3点を考慮し、eye pointingによる選択行動を形成するプログラムを作成した。次に、表出手段の著しい制限という点では同様であるが、コミュニケーション発達の段階の異なる3名の脳性まひ幼児に対し、プログラムのステージ1〜3を実施した。提示刺激としてステージ1では玩具の入った箱をターゲット、白い箱をダミーとして用いた。ステージ2では玩具の写真をターゲット、白紙カードをダミーに用いた。ステージ3ではターゲット、ダミーともに写真を用いた。その結果、以下の点について、本プログラムの有効性が明らかにされた。1.本プログラムを実施した結果、2名の対象児はステージ2においてeye pointingを用いてターゲットを選択することが可能となり、1名の対象児はステージ3においてeye pointingを用いてターゲットを選択することが可能となった。この結果は、本プログラムがeye pointingによる選択行動の形成に有効であることを示している。2.いずれの対象児においても、指導手続きを繰り返すことによって、eye pointingによる選択行動出現までの潜時は短縮し、目的に合わない視線の動きは減少していった。上記の結果と考え合わせるとこの結果は、本プログラムの実施がeye pointingの機能性を高めたことを示している。本プログラムの実施により、3名の対象児は、2つの提示刺激のうちどちらかを注視すればそれが与えられるという場面において、eye pointingを用いた選択行動を獲得した。これは、本プログラムの構造と実施手続きが、対象児の現時点での発達段階に合致したことによると考えられる。今後は、本プログラムを要求行動の形成やシンボルによる表出までを目指した階層性のある系統的なものとして発展させる必要がある。

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© 1997 日本特殊教育学会
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