本研究は、学校欠席リスク群のスクリーニングと欠席のリスク要因の評価を目標とする学校欠席リスク・スクリーニングテスト(STeRA)の作成(研究1)と、欠席日数に関連する要因ならびに学校欠席リスク群の臨床傾向(研究2)から構成されている。対象は小学4~6年の児童225名であった。研究1では、STeRAの信頼性ならびに収束的妥当性、判別的妥当性、並存的妥当性が示された。研究2では、遅刻日数や〈同級生との会話〉〈援助要請〉〈眠気〉〈国語〉〈宿題〉と欠席日数との関連が示された。さらに、登校状態にある児童において、学校欠席リスク群は他の児童よりも欠席日数および遅刻日数が多く、STeRA得点も高い傾向があることが示された。以上により、欠席の予防的取り組みにおける対象児や介入の優先順位が示唆され、STeRAのスクリーニングテストとしての活用が期待された。課題として、主観的な容態の評価方略の検討を挙げた。
本研究は小学1~6年生155名を対象に漢字書字課題を行い、正しく整っている/判読可能の2基準で採点し、学力および視覚情報処理能力との関係を検討した。結果、双方の採点基準で学力との相関を認めたが、整った文字は判読可能文字に比して相関係数が有意に高くはならなかった。また文字の正確性や綺麗に書くこと自体が学習となる下学年では整った文字と視知覚および視覚認知の相関が強く、相関は学年が上がると弱くなることから、整った文字を習得する過程では視知覚・認知機能の負荷が高く、上学年で整った文字を書くためには文字の詳細なイメージを思い浮かべる必要性から視覚性ワーキングメモリーへの負荷の高さが示唆された。よって学力を従属変数とした場合に正しく整った文字が書けることの蓋然性は確認されず、文字形態を整える指導に注力することは、発達障害をはじめとする認知機能に個人内差のある児童の学習到達度には好影響とはならない可能性が考えられた。
本研究の目的は、イマージェントジェントリテラシーに関する海外の健聴児と聴覚障害幼児の研究を概観し、わが国の聴覚障害幼児のリテラシーに関する研究上の課題を検討することであった。その結果、聴覚障害児のイマージェントリテラシーの出現に関する研究では、客観的な観察研究に基づき、多数の聴覚障害児を対象とした幼児期全体にわたる縦断的研究の必要性が示された。特に文字や本への関心、態度面を観察し、加えてイマージェントリテラシーの出現とリテラシーの発達の過程が健聴児と同様か否かを検討する必要性が示された。イマージェントリテラシーの発達に関連するナラティブについては、ワーキングメモリーの発達との関連は今後の検討テーマであり、この点の検討によりイマージェントリテラシーの発達を促す大人の関わり方が示唆されるものと考えられた。環境については絵本の読み方や見せ方が中心に検討されていること、また躾などを通して形成される親子関係の構築とイマージェントリテラシーの発達に関する研究はほとんどみられず、今後の検討課題であることが示された。加えて、どのようなコミュニケーション手段を使う環境に子供が置かれているか、それと言語力の発達の関係も今後の検討課題とされた。最後に、上記事項を総括的に評価する指標はいまだみられず、これに基づく指導計画の作成や指導の評価がなされることの必要性が示された。
知的障害者の学校教育から就業への移行に際して、従来重視されてきたのは就業支援および余暇支援であった。本来、知的障害者に限らず、就業と余暇は相互に影響を及ぼし合うものであるにもかかわらず、上述の二つの支援はそれぞれ別個に取り上げられてきた。本研究では、知的障害者における就業および余暇の先行研究を概観し、おのおのの現状と共通の課題を取り上げ、相互の関連性を検討することを目的とした。知的障害者の就業支援および余暇支援における共通の課題は、支援者や共に活動する人との人間関係構築に対する支援の不足であった。知的障害者と支援者との関係は、役割に依存し変化しやすい、あるいは、支援の場に限定されたものであった。今後、知的障害者における学校教育から就業への移行期において求められる支援は、役割や場に依存せず、長期にわたって安定的な人間関係の構築を支援することであると考えられた。