糖尿病
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症例報告
インスリン治療にて急性心不全を発症した糖尿病の1例
阿部 崇太田 茂内田 健三
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2007 年 50 巻 12 号 p. 873-876

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抄録

インスリン投与を契機として心不全を発症した症例を経験したので報告する.症例は64歳女性,インスリン投与開始後,約3カ月でHbA1cが14.6%から8.7%に改善した時期に下腿と足背の著明な浮腫と労作時の息切れを訴え来院した.体重は48 kgと初診時に比し12 kg増加していた.初診時43%であった心胸郭比が66%と増大し,両側胸水を認めた.心電図に著変なく,BNPは477 pg/mlと著明な高値を示し,ドップラー心エコーで左室駆出率(以下EFと略す)26%と著明な収縮機能低下と拘束型の拡張機能障害を認めた.心嚢水の中等度貯留も認めた.強心剤,利尿剤の投与で14日後には下腿浮腫と胸部X線での胸水の消失を認めたが,2カ月後の心臓超音波でもEF 35%と収縮機能低下と拘束型の拡張機能障害は不変であった.心不全発症前の負荷心筋シンチグラフィでは安静時,負荷時ともに心筋血流欠損は認めず,虚血性心疾患は否定的だがEFは37%と低下していた.本例での心不全の発症因子として慢性的な「糖尿病による心筋硬度の異常」を基盤として,急性的な「外因性インスリンによる体液貯留」が加わり発症した可能性が示唆された.

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© 2007 一般社団法人 日本糖尿病学会
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