抄録
症例は71歳の男性.2001年に耐糖能異常(IGT)と診断されたが放置.2004年1月空腹時血糖(FPG) 126 mg/dl, HbA1c 6.0%を指摘.同年4月右側腹部痛,肉眼的血尿を認め腹部CTおよび尿細胞診にて右腎盂尿路上皮癌と診断された.同時期より口渇,多飲,多尿を自覚し,5月には随時血糖(PPG) 709 mg/dl, HbA1c 11.3%, 尿ケトン体(2+)となり,手術前血糖コントロール目的で当科紹介入院となった.入院時体重61 kg(-6 kg/2カ月,BMI 23.0)でFPG 288 mg/dl, 空腹時血中インスリン(FIRI) 8.7 μU/ml, 空腹時血中Cペプチド(FCPR) 1.7 ng/ml, 尿中Cペプチド(CPR) 90.4 μg/dayで,抗GAD抗体は陰性であった.食事療法(1,600 kcal)および強化インスリン療法(30∼50単位/日)にて血糖の厳格な管理を行い,右腎尿管全摘術施行.手術当日朝には18単位のインスリンを要したが,腫瘍摘出直後より血糖上昇を認めずインスリンは全く不要となり,その後は食事療法のみでFPG 80∼120 mg/dl, HbA1c 5.3%とコントロール良好である.腎盂尿路上皮癌に伴う耐糖能変化に関する報告は極めて稀であり,高血糖を来たした報告は本例が初めてである.本例における手術前後でのインスリン必要量の急激な変化は,厳格な血糖管理による糖毒性解除のみでは説明が出来ず,腫瘍細胞による血糖上昇機序が腫瘍摘出により解除された可能性が考えられた.