抄録
症例は31歳,女性.15歳時バセドウ病で甲状腺亜全摘術を受け,入院1年前より無月経となり,1週間前より嘔吐・下痢が出現し,食事摂取が困難となった.入院当日,意識を喪失し救急搬送され,血糖919 mg/dl, 尿ケトン(4+), 動脈血pH 6.93で糖尿病ケトアシドーシスと判明した.抗GAD抗体陽性であり1型糖尿病と診断し,抗甲状腺ペルオキシダーゼ(thyroid peroxidase: TPO)抗体陽性でバセドウ病の既往歴から,多腺性自己免疫症候群type IIIAと考えた.続発性無月経に対し,下垂体ホルモン分泌負荷試験を行い,黄体形成ホルモン(LH), 卵胞刺激ホルモン(FSH)の基礎値の低下と反応性の低下を認めた.カウフマン療法にて約8カ月後に正常な月経を認めた.一方,退院後もカリウム製剤の補充が必要で,一時期カリウム高含有の青汁も摂取していたため,青汁を中止したところ,血清カリウムが正常下限まで低下した.しかし,8カ月後,2回目の入院にてカリウム製剤を漸減,中止したが,血清カリウム値は正常を維持できた.本症例は,バセドウ病術後の甲状腺機能低下に1型糖尿病を発症し,一過性ゴナドトロピン分泌不全症と長期のカリウム製剤の補充を施行した,病態生理学的に興味深い多腺性自己免疫症候群type IIIAの1例であると考えられた.