抄録
症例は65歳,女性.1995年に2型糖尿病の診断をうけ,2000年より内服加療されていたが,コントロール改善目的で2001年に他院にてインスリン治療を導入された.インスリン導入前のインスリン抗体と抗GAD抗体(glutamic acid decarboxylase antibody)はともに陰性であったが,同年にまず抗インスリン抗体が陽性化し,2003年4月には抗GAD抗体も陽性化した.2003年9月におのおのの抗体価はほぼピークを呈し,その後,徐々に消退傾向を示した.経過中に抗IA-2抗体(insulinoma-associated antibody)陽性を確認し,内因性インスリン分泌も低下を示した.本例では2型糖尿病患者がインスリン治療を契機に1型糖尿病へ移行した可能性があり,その前後の過程におけるインスリン抗体や抗GAD抗体の臨床経過を観察しえた貴重な1例と考える.