2012 年 55 巻 12 号 p. 993-997
症例は81歳女性.20歳で1型糖尿病と診断され,強化インスリン療法中であった.2011年8月31日意識障害を主訴に当院へ救急搬送された.血糖値は671 mg/dl,尿ケトン2+,代謝性アシドーシスを認め,糖尿病ケトアシドーシス(DKA)と診断,生理食塩水の補液と速効型インスリンの経静脈投与を行った.高血糖は順調に改善し,インスリンを皮下注射へ切り替えるとともに離床を開始した.第3病日に突然の呼吸困難をきたし,胸部CTにて両側肺動脈に造影欠損を認め,肺血栓塞栓症を併発したと判断した.ただちに抗凝固療法を行い,軽快退院した.DKAに肺血栓塞栓症を合併した論文報告は極めて少なく,いずれも肥満の2型糖尿病である.本症例は非肥満の1型糖尿病であり,DKAによる血液凝固能の亢進や血液粘稠度の増大,糖尿病長期罹病に伴う血管内皮障害が,肺血栓塞栓症の発症に関与した可能性が考えられた.