抄録
症例は50歳の女性.2007年6月に劇症1型糖尿病を発症したが,強化インスリン療法で良好な血糖コントロールを得ていた.通院中の尿蛋白は陰性であったが,2009年1月に下肢浮腫と5 kgの体重増加が出現した.血液・尿化学検査よりネフローゼ症候群を診断し,腎生検にて組織学的にIgA腎症と診断した.しかし,この後2ヶ月の経過で,浮腫および低蛋白血症・高脂血症は急速に自然軽減した.また,テルミサルタンを投与し浮腫の消失,尿蛋白・血清蛋白・脂質の更なる改善を認めた.この半年後に扁桃摘出術を施行し,現在IgA腎症の活動性は寛解状態にある.劇症1型糖尿病発症後にIgA腎症を発症した症例の報告はこれまでなく,また発症から約3ヵ月間で急速に症候が自然軽減するという興味深い経過を観察した.両疾患の発症様式にはいくつかの共通性が示唆され,各々の発症要因を検討する上で重要な症例であると考えられる.