抄録
74歳女性.42歳時に1型糖尿病と診断され,血糖コントロールは不良であった.腹痛,嘔気,食欲不振あり当院受診.血糖値461 mg/dl,尿中ケトン体3+,炎症反応上昇を認め,糖尿病ケトーシスと感染性胃腸炎の診断で入院となった.第2病日に血中アミラーゼの上昇,腹部CTでは膵頭部の炎症と十二指腸の浮腫状肥厚を認め,保存的治療にて症状は軽快した.第8病日の上部消化管内視鏡では十二指腸に浅い多発性びらんと潰瘍,浮腫を認めた.本症例は発症前に抗生剤やNSAIDsの服用がなく,内視鏡および組織所見では十二指腸に虚血性変化の所見を認めたため,虚血性十二指腸炎と考えられた.十二指腸は腹腔動脈と上腸間膜動脈の両方から栄養されており,虚血の起こりにくい部位である.糖尿病ケトアシドーシスやケトーシスに虚血性十二指腸炎を合併した報告はなく極めてまれな症例を経験したため,文献的考察を加えて報告した.