2021 年 64 巻 11 号 p. 555-560
症例は50歳男性.46歳時に2型糖尿病と診断されたが,既に多発合併症あり,その後も治療中断を繰り返し血糖コントロールは不良であった.眼の奥の痛みを主訴に眼科・耳鼻咽喉科を受診し,副鼻腔炎の診断にて抗菌薬を開始したが改善なく入院となった.副鼻腔壊死組織の病理所見にて骨髄浸潤を伴う鼻脳型ムーコル症と診断した.リポソーマルアムホテリシンB投与開始とともに,鼻咽喉ファイバースコープ下で排膿・壊死組織除去を繰り返し治癒した.ムーコル症は,特異的な症状・所見に乏しく,診断が困難である上,血栓形成を伴う血管侵襲を特徴とすることから経過は急速で,予後不良といわれている.治療は,外科的切除および適切な抗真菌薬投与である.本症例は,血糖コントロールおよび外科的処置により,比較的限局した局所の感染制御が得られ,良好な経過を辿ったと考えられた.ムーコル症の予防・治療には糖尿病の管理が重要である.