2021 年 64 巻 12 号 p. 586-591
症例は29歳,女性.11歳時に2型糖尿病と診断され治療を開始されたが,治療状況は不規則で26歳から中断していた.左上肢の不随意運動が出現,その12日後にHbA1c 16.1 %,血糖値603 mg/dLであったため当科に緊急入院となった.脳MRI画像で異常所見を認めなかったが,臨床的に糖尿病性舞踏病と診断した.インスリン治療開始とともに翌日には不随意運動は消失したものの,経過中に血糖値が70 mg/dLを下回る時間帯がたびたび認められた.退院して5日後に眼痛,複視,右眼瞼下垂が出現し,右糖尿病性動眼神経麻痺の診断で再入院となった.高齢者に多いと報告されている糖尿病性舞踏病と動眼神経麻痺を,29歳でほぼ同時期に発症したまれな病態の背景には,長期放置による著明な高血糖に加えて,急速な血糖低下による微小血栓形成が影響したと推察される.また糖尿病増殖網膜症とネフローゼの存在から,細小血管障害の進行が考えられ,局所的な虚血性変化をもたらしたと考えられた.