糖尿病
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低血糖を伴う胸腔内巨大線維肉腫の1例
有馬 直道炉木 秀生河野 泰子川 明牧 光紘田中 俊正田辺 元
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1978 年 21 巻 2 号 p. 159-168

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抄録

胸腔内巨大腫瘍に伴った低血糖発作が腫瘍摘出により完全に消失した1症例を報告した.
患者は44歳の男性で15年前胸写で左肺野に異常陰影を指摘されたが自覚症なく放置していた.昭和49年暮より早朝空腹時に意識障害を主とする低血糖発作が出現し翌年4月当科に入院した.入院時胸写で左肺野の大半を占める境界明瞭な異常陰影が認められた.入院後も頻回に低血糖発作があり, 早朝空腹時血糖値は15~50mg/dlでIRIも3~15μU/mlと低値を示した.また, glucagonの分泌も抑制されていた。
Tolbutamideやleucindこ対するIRIの過剰反応は認められず, また、腹腔動脈造影にも異常所見はなくinsulinomaは否定された.肝機能や下垂体および副腎皮質機能にも異常を認めず, 胸腔内巨大腫瘍による低血糖症の診断で腫瘍摘出術を行った.術後低血糖発作は完全に消失した・
腫瘍は左葉間胸膜を原発巣とする悪性度の低い線維肉腫であり、重量3,020g, 大きさ28×17×11cmで左胸腔のほぼ全体を占めていた.
腫瘍組織および血清ILA (insulin-like activities) はウサギ血糖下降法・ラット横隔膜法・ラット副睾脂法のいずれによっても認められなかった.腫瘍組織の解糖系酵素活性は人赤血球に比べ単位蛋白重量当たり高い傾向を認めた.この解糖系酵素活性の上昇と低血糖との関連についてはいまだ決定的な結論をひきだすことは困難である.
本症例の低血糖は腫瘍の糖過剰消費にglucagon抑制状態が加わった可能性の大きいことについて論じた.

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