従来よりのカロリックホメオステージスの概念は, 飽食と絶食という対局に対応して組み立てられたものであり, 摂食量の変化には考慮が払われていない.しかしヒトは, 常に摂食している動物であり, 摂食量の変化が直接組織エネルギー産生系に反映されない仕組みが存在するはずである.
正常者にブドウ糖30gおよび100gを経口負荷し, 静脈血中の血糖, 乳酸, ピルビン酸, FFA, グリセロールおよび呼吸商を経時的に測定したところ, 正常者では負荷後1時間まで, これら代謝産物および呼気ガスの変化は, 負荷量の影響を受けなかった.このことは, 正常者の肝は経口摂取したブドウ糖量を緩衡する機構を備えていることを示すものである.また, インスリン追加分泌は, ブドウ糖負荷量に対応しており, この緩衡機構はインスリンの肝での作用に依存していることを示すと同時に血糖較差を生じさせない機構は乳酸よりの糖新生および脂肪組織での脂肪分解過程へのインスリン効果の反映によるものではないことが示唆された.
ケトージスを伴い, インスリン追加分泌の認められない糖尿病者の血糖は, 30分よりすでに負荷量の変化を反映した値として表現されたが, この事実は肝でのインスリン作用の消失した場合, 生体は負荷量を緩衡する機構を失うことを示すもので, 糖尿病の代謝異常の特性の1つを表現するものである.
インスリン追加分泌の認められる種々の程度の耐糖能異常者では, 血糖, インスリン分泌ともに健常者のタイプより, ケトージスを伴う糖尿病者のタイプへ漸次移行していることが認められた.その有意差検定によると, 耐糖能の悪化に伴い血糖較差が早期より出現するようになりインスリンの追加分泌の較差は, 血糖とは逆に小さくなった.また, 乳酸, ピルビン酸の上昇およびFFA, グリセロールの減少の較差も血糖値と略同様に耐糖能の変化に伴い負荷量による較差が増大した.このことは, インスリン分泌較差が, 肝でのこれらよりの糖新生および脂肪組織での脂肪分解の抑制過程に反映されるようになることを示すと同時に, 今後の糖尿病の新しい分類の方向性を示唆するものである.
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