抄録
フェンホルミン内服糖尿病患者にみられた典型的な乳酸アシドーシスの症例を報告する.
症例は59才の主婦で主訴は意識障害である.昭和42年 (50才) 頃より食慾充進, 口渇, 体重減少等あって43年7月糖尿病を発見, 始めは食事療法と高血圧の治療をうけていたがその後HB419 10mgとフェンホルミン100mgの併用となった.肝腎に著変なく, 網膜症Scott 0~1°, 昭和51年7月下旬下痢, 8月7日排尿痛出現し膀胱炎の診断を受け抗生物質を服用, 8日昼頃より悪心が出現した.抗生物質の内服は中止したが血糖降下剤の内服は続け, 10日から摂食不能, 昼より意識障害が出現し, 午後2時には昏睡となり, 4時30分緊急入院となった.入院時昏睡状態で, 体温は35.7℃, 脈搏微弱, 血圧56mmHgのショック状態で, 呼吸数30/分, チアノーゼあり, 心音微弱で深部反射消失, 血糖値200mg/dl, ヶトン尿なく, 動脈血pH6.95, base excess-31mEq/Lの代謝性アシドーシスで血漿乳酸値27.8mM, anion gap 41 mEq/Lの典型的な乳酸アシドーシスであった.電解質ではKの増加, 尿素窒素105mg/dl, GOT88U, GPT38U, 血漿膵グルカゴン1,021pg/ml, 血漿アミノ酸分析でアラニンの著増を認めた.重曹水, グルコース, 微量インスリン注入とプレドニゾロン投与により血圧は回復し, 意識障害はその後も続いたが, 4ヵ月後に知能障害をのこして退院した.