1980 年 23 巻 9 号 p. 879-888
甲状腺機能亢進症に糖尿病性ケトアシドーシスが合併し意識障害をきたしたとする報告は本邦では乏しい.著者らは, それぞれ7年, 14年の長期間すわたる甲状腺機能亢進症が適切な管理を受けることなく放置されていた状態で, 突然糖尿病性ケトアシドーシスによる意識障害を合併し, 回復後インスリン依存性糖尿病となった若年の2女性例を報告する.症例1: 25歳, 女.18歳甲状腺機能亢進症, 放置.口渇, 全身倦怠, 眠気を主訴.傾眠gradeII甲状腺腫.皮膚粘膜乾燥尿中糖, ケトン体とも強陽性.血糖636mg/dl.動脈血pH7.236, PCO220.9mmHg, BE-17mEq/l, HCO3-8.5mEq/l, Ht48%.T3RU51.5%.T417.4μ9/dl, T3270ng/dl, TSH測定感度以下.サイロイド, マイクロゾーム試験いずれも陽性.
症例2: 37歳, 女.23歳甲状腺機能亢進症, 放置.嘔吐, 動悸, 傾眠を主訴.傾眠.頻拍154/分.甲状腺触れず.皮膚粘膜乾燥.尿中糖, ケトン体とも強陽性。血糖400mg/dl以上.動脈血pH7.176, PCO217.5mmHg, BE-19.9mEq/l, HCO3-6.4mEq/l, Ht53%.T3RU5L8%, T416.8μg/dl, T3280ng/dl, TSH測定感度以下.マイクロゾーム試験陽性.2症例とも補液, イソスリン治療によりケトアシドーシスの改善をみたが, インスリン抵抗性を示し, 抗甲状腺剤の投与とともすインスリン需要の明らかな減少を認めた.2症例はHoussayのいうmetathyroid diabetesに該当すると考えられるが, 糖尿病の発症要因には, 遺伝, 自己免疫因子についても考慮する必要があろう.