抄録
46歳男性, 1975年頃より皮疹出現, その後necrolytic migratory erythemaと診断された. 患者は体重減少, 貧血, 舌炎, 脱毛, 低蛋白血症, 耐糖能の低下が認められた. 血中アミノ酸はすべて著減しており, 血中グルカゴン (IRG) は4,000~8,000μg/mlと著しく上昇していた. 血中IRGはブドウ糖の投与後に奇異性上昇を示したが, インスリン低血糖ではIRGの分泌はみられずむしろ低下した. アルギニンや食物摂取後にも血中IRGの著明な上昇がみられた. しかし, 他の下垂体, 甲状腺, 副甲状腺, 膵・消化管ホルモンの分泌はほぼ正常範囲にあった. 膵体尾部に手拳大の腫瘍を認めたので外科的に切除, A細胞腫であることが確認された. さらに, リンパ節や肝に多発性の転移が認められた. この間皮疹はアミノ酸投与により軽快していた. 血中IRGの分子多様性をBio-Gel P-30 columnを用いて検索したところ, C端抗体30Kではほとんどが分子た量3,500の部位に溶出された. また, N端抗体K 4023でも主として分子量3,500の部位にIRGは溶出されたが, 12~15%のIRGは大分子の部位に溶出された. したがって, 本患者での血中IRGはそのほとんどがtrue glucagonであると考えられ, これが典型的な臨床症状の発現に密接に関与していることが示唆された.