1985 年 28 巻 10 号 p. 1159-1166
低血糖発作を繰り返すインスリノーマに対し, propranololとdiazoxideを経口的に投与し, その効果に若1二の知見を得たので報告する.症例.27歳男性.主訴は意識障害。昭和57年7月下旬より四肢の脱力感が出現.ブドウ糖の静注にて上記症状は軽快.同年8月中旬, 早朝に冷汗と傾眠傾向が頻発するようになり, 同年8月16日朝方, 意識消失発作が出現し, 当院外来を緊急受診し, 入院となった.受診時, 血糖値20mg/dl以下で, ブドウ糖の静注にて症状は回復した.空腹時血糖値に比し, 血中インスリン値が高値でありインスリノーマが強く疑われた.各種インスリン分泌刺激試験を行ったが, インスリン分泌は亢進していた。インスリン負荷試験では, 血1糖値が低値を示しても, C-ペプチドは高値を示したままであつた。入院後も繰り返し出現する低血糖発作に対し, 経口的にpropranololおよびdiazoxideを投与してみた.血糖値の上昇は有意ではなかったが, 血中インスリン濃度は, propranolol, diazoxide投与時ともに低下し, 特にdiazoxidc投与時での血中インスリン濃度の低下が著明であった.摘出標本の電顕像では, 腫瘍細胞中に分泌顆粒が認められ, ヒトィンスリンに対する酵素抗体法による染色標本にて, インスリン産生性島細胞腫と診断された.