糖尿病
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著明なインスリン抵抗性を呈した肝硬変合併糖尿病の1例
小田 秀治能登 裕森丘 里香宮本 市郎西村 泰行真田 陽宮腰 久嗣服部 信
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1986 年 29 巻 11 号 p. 1063-1069

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抄録

1日のインスリン必要量が200単位を超えるインスリン抵抗性を示した肝硬変合併糖尿病の1例を経験し, その抵抗性の機序を検討する上で興味ある知見を得たので報告する. 症例は42歳男性. 20歳頃より大量の飲酒歴があり, アルコール性肝障害でこれまで4度 (33歳, 35歳, 37歳, 39歳) の入・退院を繰り返している, 37歳の時に糖負荷試験の成績から初めて糖尿病と診断されたが, 血糖は食事療法ないし経口血糖降下剤にて良好にコントロールされていた. 今回, アルコール性肝硬変の代償不全を契機に入院となり, 高血糖が持続するためインスリン療法が開始された. しかし, 肝硬変の代償不全が改善した後も血糖コントロールは不良で, 一時期200単位を超える大量のインスリンを必要とした. 患者血中のインスリン抗体は陰性. インスリン拮抗ホルモンのうちグルカゴンと成長ホルモンの基礎値の上昇を認めたが, 通常の肝硬変でも認められる程度の増加であった, インスリン抵抗性の極期に一致して, 一過性の血中インスリン分解活性の上昇が認められた. 赤血球のインスリンレセプターへのインスリン結合能はほぼ正常, 抗インスリンレセプター抗体は陰性であった. euglycemic clamp studyから得られたインスリンの用量一反応曲線では著明な反応性 (responsiveness) の低下が認められ, 同時にインスリンのmetabolic clearance rate (MCR) の上昇が認められた.
以上より, 本例におけるインスリン抵抗性の主因はpostreceptorの障害と考えられたが, これに加えて組織のインスリン分解ないしはクリアランスの亢進が抵抗性の成因に関連している可能性が考えられた.

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© 社団法人 日本糖尿病学会
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