糖尿病
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糖尿病者, ハワイ島日系人における大動脈脈波速度 (PWV)
動脈硬化症の非観血的診断法としての臨床的意義ならびに糖尿病性細小血管障害との関連についで
原 均森田 直樹小川 潤一郎江草 玄士小武家 暁子久保 敬二大久保 雅通田辺 泰登高山 定松松本 康子山木戸 道郎西本 幸男
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1986 年 29 巻 8 号 p. 737-748

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抄録

大動脈脈波速度法 (Aortic Pulse Wave Velocity, PWV) の臨床的意義について検討するため, 当科糖尿病外来通院中の確実な糖尿病者194例とハワイ島在住日系米人552例を対象とし, 長谷川らによって集計された日本人一般対照者40,665例の成績と一部対比しながら検討した.
1) 糖尿病者群, 日系人群, 対照者群の年齢別平均PWV値は年齢とともにほぼ直線的に高値となり, 動脈硬化が進展していると考えられる糖尿病者群では40歳代から, 日系人群では50歳代から年齢別平均PWV値は有意に高値であり, PWV値は加齢の影響を強く受けること, 動脈硬化の良き指標となり得ることが示唆された. 糖尿病者群において糖尿病血管合併症進展各危険因子などとPWV値との関係をみると, PWV値は年齢・収縮期血圧・糖尿病罹病期間と良く正相関し, 肥満度・血清脂質・平均空腹時血糖値 (過去2~3ヵ月)・HbAlc値との相関は認められず, 胸部X線撮影による大動脈弓石灰化像の有無・眼底動脈硬化性変化 (Scheie分類) の程度・虚血性心電図変化の有無などと良好な対応関係を示した.しかし喫煙習慣とは逆の対応関係が認められた. 日系人群では年齢・血圧・509糖負荷試験2時間血糖値・血清尿酸値と正相関関係が, 血清コレステロール値・血清中性脂肪値と弱い正相関関係が得られ, 血清HDL-コレステロール値とは逆相関関係が得られた.5分割法で分析した50g糖負荷試験時のΣIRI値とも正相関した. また問診形式による動脈硬化性疾患発症者は非発症者に比し平均PWV値は有意に高値であった. 以上の成績からPWV値は一部の動脈硬化症進展危険因子との相関関係が得られないが, 他の動脈硬化症の指標や危険因子と良く相関し, 動脈硬化症の非観血的定量的診断法のN指標として有用と考えられた.<BR.2) 糖尿病者群においてPWV値は罹病期間と年齢の因子を除去し検討しても良く相関すること, 糖尿病性細小血管障害進展例 (糖尿病性網膜症の程度, 蛋白尿の程度, 臨床診断による神経症の有無) では年齢・血圧の二因子を訂正し検討しても, 動脈硬化症の指標であるPWV値が有意に高値であるという成績が得られた. このことはdiabetic miroangiopathyとmacroangiopathyに接点のあることを示唆する成績と理解された。

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© 社団法人 日本糖尿病学会
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