抄録
我々はさきに,乾燥の全過程に亘つて試料からの脱水量を測定し,それを1つのめやすとして,凍結乾燥における乾燥の機構を考察した。その後更に次のようないろいろの場合について観察を進めたので,それらの結果を報告するとともに,乾燥の機構について考えてみたい。1)試料全体としての形態的観察: 血清及び菌液を用い,脱水量測定のときとほゞ同一の条件のもとで,凍結,乾燥の途中及び乾燥後の各段階に於ける試料の構造を顕微鏡的に観察した。それには水で飽和したアニリンの共融点が-12℃にあることを利用し,アニリンで固めた試料を-20℃の低温室で0.1mmくらいの薄片にし,それを-10℃の室に移し,アニリンを融して鏡検するのである。このようにして作つた標本から,試料の種類により,また凍結の条件によつて,それぞれ特有の氷晶の形成していることがみとめられた。更に乾燥過程に於ける氷晶の昇華の状況をうかがうことのできる所見も得,乾燥連度曲線との関連について考察することができた。2)個々の細胞の形態的観察: 細胞特に微生物を電子顕微鏡によつて観察する場合,通常行われる空気乾燥による標本では細胞の変形が甚だしいが超急速凍結による凍結乾燥を行えば,ほゞ原形に近いものが得られることは既に知られている。そこで更に条件をいろいろと変えて,液状乾燥と凍結乾燥との比較凍結時の冷却速度,乾燥時の温度などを種々にして吟味してみると,形態的にかなり差のできることがわかつた。3)乾燥過程に於ける試料の部位による含水率と菌性残率の関係について: 菌液をある容器に入れて凍結乾燥する場合,試料は立体的構造を保つたまま乾燥は表層から次第に深部に向つて進行する。この時昇華の最前線が通過した後に残された部分は既に乾燥が完了しているものかどうかを検討してみた。即ち乾燥過程のいろいろの段階で試料をとりだし(未乾燥部分がある時は-40℃の低温室に移して),上層から順次2層乃至3層に分けて,それぞれの部分に含まれる含水率及び生残率をしらべた。その結果見かけ上の乾燥終了部分でも,含水率と生残率は乾燥の時間の経過とともに漸次減少し,結局ある限界に達するまでは,各部位ともに多かれ少なかれ昇華(或は菌体内からの蒸発)の途中にあることがみとめられた。