抄録
1990年代以降、記号論的研究の発展とともに、改めてツーリズム論分野でも記号論に立脚した研究が進展している。こうした記号論的研究は、全体的かつ大略的にみると、通常のツーリズム研究、すなわち非記号論的研究とは別の形で進行し、ツー
リズム研究ではこれら2つの方向がいわば二者分裂的に進んでいる。これは他方では、ツーリズムはじめすべての人間行為は記
号に立脚するから、ツーリズム研究を含むすべての社会科学的研究は記号論が土台となるという記号論帝国主義的な主張となって現われている。これらを克服し、真に統合的なツーリズム論の確立のためには、記号論に立脚したツーリズム研究の特性を明らかにすることが必要である。本稿の結論的主張は、単に記号論立脚的研究と非記号論的研究の統合のみに志向したものではなく、それを含み、かつそれを超えた真に統合的なツーリズム論の方法論が必要とされるというところにある。