抄録
本稿は観光経験とライフスタイルの移住の意思決定に関する先行研究を検討し、これからの研究を展望し、今後あるべき方向性を提示することを目的とする。まず、先行研究の検討によって、ライフスタイル移住という概念が提示された背景を論じ、次いで過去の観光経験がライフスタイル移住の意思決定に影響を与えるという指摘に焦点を当てる。本稿で扱うライフスタイル移住は、一般的には、生活の質の向上や、自己実現のための自発的な移住と定義される。その源流はヨーロッパと北米において、退職後に快適な生活を求めて移住をする国際退職者移住にあり、こうした退職者の移住地選択は、過去の観光経験に影響されているという指摘がある。しかしながら、これらに類する既存文献を吟味すると、観光経験による移住を促進する要因や、動機についての研究蓄積はあるものの、観光経験が移住の意思決定に対してどのような影響を与えるのかについては、ほとんど研究がなされていない。そこで、観光行動研究における場所への態度に関する概念を移住の意思決定への援用可能性について検討した。その結果、観光経験によって場所への肯定的な態度が形成されると、それが移住する意図を形づくり、さらに移住が実行されるというプロセスを経るという仮説を立てることができる。