観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
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ウイグル族集住地域の「観光空間」化が意味するもの
カシュガル旧市街地から何が見えるのか?
山田 勅之
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2021 年 9 巻 2 号 p. 111-129

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抄録

中国では政府主導で観光開発が推進されており、観光空間化にともなう少数民族文化の再編についても、国家の価値観が大きく反映されている。従来の研究は、この点の解明に力点が置かれてきたが、再編の過程で生じる国家の価値観と少数民族の持つエスニシティとの間のせめぎあいについては検証が不足している。そこで本稿では、民族問題が噴出する新疆ウイグル自治区のカシュガル旧市街地を対象に、ウイグル文化とモスクの観光対象化の検証から、観光空間化の意味するところを考察した。まず、ウイグル文化の観光対象化について、観光専門の業態が新たに生じる一方で、職業を単位とするマハッラが観光空間化のなかで存続し ていた。これに対して、中国国内観光客の多くは少数民族が持つプリミティブ性の表象と捉えているが、一方で他の国民国家に対して持つ認識に近い者もいる。またモスクの多くは「宗教の中国化」政策の下、存在そのものが危い状況にあるものの、観光対象化は継続されている。このことは、宗教を消除し切れない実態を表している。他方、カシュガル旧市街地では「壁」が構築され、住民への監視強化が図られている。すなわち、マハッラの観光空間への包摂が、民族騒乱の元凶とみなされる伝統的社会組織の維持につながったためになされた措置と言える。
カシュガル旧市街地の観光空間化の検証から、ウイグル族の強靭さが見えて来るのである。

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