観光学評論
Online ISSN : 2434-0154
Print ISSN : 2187-6649
現代の先住民観光と博物館
アイヌ—古老のライフストーリー展示にみる観光の可能性
吉本 裕子
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ジャーナル オープンアクセス

2021 年 9 巻 2 号 p. 179-195

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抄録

本稿は、「リベラルアーツとしての観光—ツーリストのリテラシーとは何か」という特集の趣旨を踏まえ、アイヌ観光の主要な舞台である博物館において、観光者が獲得できる「リテラシー」とは何かを問いながら、現代の先住民観光の可能性を検討するものである。
モノ資料を用いて民族文化を分かりやすく展示してきた博物館は、しばしば過去の「伝統」を強調した展示になりがちで、先住民の現況への理解を深めるよりも、固定的で本質主義的なイメージを助長してしまう危険性もあると指摘されてきた。よって近年は、現代の多様な先住民文化を含めた展示を構成することが大きな課題となっている(須永, 2016; 吉田, 1999)。アイヌ文化を展示する博物館でも現代性を含む展示が増加しているが、その多くは工芸家の作品や文化継承者の現況等に偏る傾向にある。一方、本稿で取り上げる現代展示は、同化政策の影響によって文化継承の機会を失った一古老のオルタナティブなライフストーリーを題材にしたものである。古老と筆者との対話から生み出された展示内容や、古老と観光者のコミュニケーションに着目し、本展が観光者に与えた影響を検証しつつ、現代の先住民観光の可能性を考える。

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