抄録
【緒言】ゲノム創薬の進歩により,バイオ医薬品開発は加速すると考えられる.バイオ医薬品の毒性評価,特に慢性毒性評価は中和抗体の産生などの多くの課題がある.ヒト成長ホルモン(hGH)は,バイオ医薬品としてhGH分泌不全症だけではなく,最近では心疾患などへの適応も報告されている.一方でhGH分泌異常患者は心血管系による死亡率が高いが,そのメカニズムは不明である.そのため,我々はバイオ医薬品であるhGHの慢性暴露による心血管系への影響を検討するモデルとして,トランスジェニック(Tg)マウスを用いて検討した.
【材料および方法】TgマウスにEGFPとhGHの発現を別々に制御した連結遺伝子を導入することで,遺伝子導入を簡便に判定できる様にした.TgマウスおよびC57BLマウスの血漿を8,12,16週齢に採血し,hGH,心血管系リスク評価として中性脂肪,総コレステロール,LDLコレステロール,遊離脂肪酸,過酸化脂質を測定した.また各週齡の心臓および肝臓を採取し,臓器重量を測定した後,組織学的に検討した.
【結果および考察】hGHの濃度は雌雄12週以降ほぼ同じレベルであった.LDLコレステロールおよび過酸化脂質において,雄で高値が認められ,雌で低値が認められた.中性脂肪も加齢に伴い,雄で増加傾向が認められた.肝臓では臓器重量に性差は認められなかったが,組織学的に脂肪滴と思われる空胞化が雄で早期から認められた.心臓では雄で臓器重量が加齢に伴い増加していく傾向が認められ,16週で有意に増加していた.今回の結果から, hGHの慢性暴露による心血管系リスクは雄では高くなるが,雌では低くなることが判明した.またhGH慢性暴露により脂質代謝ならびに抗酸化能に性差が発生した原因として,雄特有のhGH分泌パターンの欠如が影響しているものと考えられたが,さらに詳細な検討を行う予定である.