抄録
アフラトキシンB1(AFB1)は、土壌菌であるAspergillus flavusやA. parasiticusによって産生されるカビ毒で、強い肝毒性と共に発癌性を有しており、実験動物に肝癌を誘発することが知られている。AFB1誘発ラット肝癌より樹立したK2細胞では、p53、Rb、H-Ras、N-RasやK-Rasの変異は見られず、癌遺伝子であるc-mycおよびシグナル制御因子であるリン酸化セリン結合タンパク質14-3-3βが過剰発現されている。今回、K2細胞の増殖および造腫瘍性における14-3-3βの機能を解析した。14-3-3β mRNAに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドでK2細胞を処理したところ、その増殖能は低下した。また、アンチセンス14-3-3β cDNA発現ベクターを導入することにより14-3-3βの発現量を低下させたK2細胞株を樹立し、ヌードマウス皮下へ移植したところ、腫瘍形成能の著しい低下が見られた。形成された腫瘍の性質を調べたところ、アポトーシスの増加と血管新生能の低下が認められた。14-3-3βはBadに結合してアポトーシスを制御すると共に、c-mycと同様に細胞増殖を制御するRaf-1キナーゼの活性を調節していることが報告されている。そこで、K2細胞に14-3-3β、c-myc、raf-1のアンチセンスオリゴヌクレオチドを様々な組み合わせで添加し、増殖能に対する作用を解析した。その結果、c-myc、14-3-3βおよびraf-1に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの同時処理により、K2細胞の増殖は顕著に抑制された。これらの結果より、14-3-3βはc-mycと協同してRaf-1キナーゼの活性を正に制御して肝癌細胞の増殖や造腫瘍性に強く関与していることが強く示唆された。また、アンチセンス14-3-3β cDNA発現ベクターを導入した細胞ではVEGF mRNAの発現量が低下していたことから、14-3-3βは血管新生においても重要な役割をしているものと思われる。