抄録
肝門部遮断や、瀉血による低血圧は実験的肝温阻血モデルとして汎用されている。しかしながら、その殆どが成獣動物を用いた検討であり、幼若動物で検討した知見は非常に乏しい。そこで、本研究では、肝門部遮断または瀉血による低血圧モデルを作製し、幼若および成獣ラットにおける肝障害の発現について比較検討した。幼若(2-3週齢)および成獣(10-11週齢)の雄性SD/IGSラットをイソフルラン麻酔下にて、肝門部を血管クリップにて遮断(虚血群)または瀉血により平均大動脈圧を40 mmHg>に維持すること(低血圧群)により1時間肝温阻血を施行した。阻血後に、肝門部の遮断解除または、返血により6および24時間再潅流を施行し、血液生化学検査(ALT, AST)および肝病理組織学的検査を行い幼若および成獣ラットの肝障害を比較した。虚血群では幼若および成獣ラットにおいて、再潅流6、24時間後にALTおよびASTの増加および肝実質内に出血を伴う肝細胞壊死が観察された。週齢による比較では、幼若では肝細胞壊死について個体間のばらつきが認められたが、成獣では均一、かつ6時間から強く広範な肝細胞壊死が認められた。低血圧群では幼若ラットではALTおよびAST増加は観察されず、病理組織学的にも肝臓に変化は認められなかった。一方、成獣ラットでは、再潅流6および24時間後に肝細胞壊死が認められ、ALTおよびASTも増加した。以上の成績より、低血圧により誘発される肝阻血による発生する肝障害は幼若および成獣ラットにおいて大きく異なることが明らかとなった。また、そのメカニズムは非常に興味深く、今後の検討課題であると考えられた。