抄録
【目的】いくつかの変異原物質において,着床前のマウスに投与すると胚致死および異常胎児が増加することが知られている。そこで今回,我々はラットに対して交尾成立から着床までの期間にアルキル化剤であるmethyl methanesulphonate (MMS) を単回投与し,胚・胎児発生への影響を検討するとともに,その感受時期についてもあわせて検索した。 【方法】交尾成立させたラットを投与日毎に妊娠0日(GD0)群,GD1群,GD2群,GD3群,GD4群,GD5群およびGD6群に各7~9例ずつ振り分け,妊娠0~6日のいずれかの午前にMMSの200 mg/kgを単回経口投与した。対照群は無処置動物とした。全動物について妊娠20日の午後に帝王切開を実施し,子宮内の胚・胎児の生死を判別するとともに,胎児体重および胎盤重量を測定した。また,生存胎児および胎盤について異常の有無を観察した。 【結果および考察】帝王切開の結果,着床率がGD0群で低値となった。また,着床後胚死亡率の高値がGD0群およびGD3~GD6群で認められた。外形異常はGD4 群で1児(2.0%,外脳)に,GD6群で2児(2.0%,小下顎または曲尾)に認められた。胎児体重の低値がGD5およびGD6群で認められ,GD6群では胎盤重量が低値となった。一方,胎盤重量の高値がGD0群で認められた。GD1およびGD2群においては,胚死亡および胎児・胎盤への影響がほとんど認められなかったことから,これらの時期は発生毒性に対してMMS投与による感受性が低いと考えられた。以上の結果から,ラットの着床までの期間において,MMSの暴露時期によって胚または母体の感受性は異なり,発現する発生毒性も異なる可能性が示唆された。