抄録
【目的】シクロヘキセンは特殊溶剤、シクロヘキセンオキサイド他各種有機合成原料、染料の中間体などに用いられており、変異原性を示す物質であるが、発がん性を含む長期毒性試験の報告はない。我々はシクロヘキセンの長期毒性を明らかにする目的で吸入暴露により2年間の試験を実施した。
【方法】F344ラットとBDF1マウスの雌雄、各群50匹にシクロへキセン(和光試薬1級)をラットは雌雄とも600、1200、2400 ppm、マウスは雌雄とも75、150、300 ppmの濃度で1日6時間、1週5日間、2年間全身暴露した。一般状態の観察、体重、摂餌量の測定、血液学検査、血液生化学検査、尿検査、剖検、臓器重量測定及び病理組織学検査を行った。
【結果及び考察】ラットでは、対照群と比べ生存率、一般状態及び摂餌量に差異を認めなかったが、2400 ppm群の体重は雌雄とも全投与期間を通じ対照群に比べて低値であった。腫瘍性病変は、雄に肝細胞腺腫と肝細胞癌を合わせた発生の僅かな増加が認められた。また、雄の肝臓では前腫瘍性病変である好酸性小増殖巣の発生増加が2400 ppm群、肝海綿状変性の発生増加が1200 ppm以上の群に認められた。雌に腫瘍の発生増加は認められなかった。その他、雄の腎臓(慢性腎症)、甲状腺(巣状濾胞細胞増生)及び雌雄の脳(小脳の顆粒細胞の変性)に病変の増加がみられた。
マウスでは、対照群と比べ生存率、一般状態及び摂餌量に差異を認めなかった。体重は、300 ppm群の雌雄で投与期間中にやや低値の週もみられたが、最終体重は対照群との間に差を認めなかった。また、腫瘍性病変及び非腫瘍性病変とも暴露による影響は認められなかった。
本試験は労働省(現厚生労働省)の委託により実施した。